今年、筆者が創業した商業ファイナンス企業bizbritainでは、資金調達の審査システムを含む自社ソフトウェアの構築と運用にAIを活用した。開発にかかった期間は4週間未満、費用は1000ドル(約15万円)未満だった。ほんの2〜3年前であれば、同様のプロジェクトには相当な外部ソフトウェア開発予算が必要であり、1年の大半を費やしていただろう。
アイデアが形になり、チームが毎日使うツールへと変わるプロセスを目の当たりにして、創業者自らが現実的に対応できる業務の範囲に対する考えが変わった。しかし同時に、多くの起業家が浮き足立ち、AIをビジネスのあらゆる課題に対する万能薬のように扱っているとも感じている。AIは万能ではない。少なくとも現時点ではそうだ。ソフトウェアの構築やグラフィックの制作、原稿の整文には非常に長けているが、法的な判断を下したり、激怒しているクライアントと対話したりするのは得意ではない。
諦めたプロジェクトを再考する
多くの創業者は、費用がかかりすぎる、開発が遅すぎる、あるいは社内にスキルを持つ人材がいないといった理由で棚上げにした技術プロジェクトのリストを抱えている。そのリストをもう一度見直す価値はある。プロジェクトを凍結した理由が、もはや当てはまらなくなっている可能性があるからだ。
テクノロジーではなくビジネス上の課題から着手し、それを解決することで何が改善されるのかを問い直そう。そして、成果を判断できるくらい十分に小さな規模から始めることだ。達成すべきタスクと望ましい成果を明確にし、ビジネスの主軸として依存させる前にしっかりとテストする。自分のノートパソコン上で動作するデモは心強いものだが、繁忙期の火曜日に実際のユーザーが使っても耐えられるシステムとは別物だ。また、誰かが成果物を点検する必要もある。AIを利用しても、成果物に対する責任が免除されるわけではない。
今やはるかに多くのアイデアが手に届くようになり、あらゆる場面で専門家の助けが必要だと決めつけるのではなく、どこで外部の専門家を導入すべきかをより慎重に判断できるようになっている。
それでも専門家に同席してほしい領域
筆者にとって明らかな例は法務だ。リスクの大きい法的な状況において、費用を節約するためだけに有資格の弁護士ではなくAIに頼るのは、リスクに見合わない。
AIは微妙なニュアンスを見落とすことがあり、完全に説得力があるように見えて明確に間違っている回答を出すこともある。直面している決断が法的義務を生じさせたり、紛争に発展する可能性がある場合、それは重大な問題となる。
だからこそ、筆者は法務の専門家に関与してもらい続けている。何が重要かを理解し、筆者の思い込みに異論を唱え、選択がどのような結果につながるかを理解している人物に費用を払っているのだ。契約書の作成時間を数時間節約できても、見落としによって1年後にさらに大きな問題へ発展してしまっては、引き合わない取引と言わざるを得ない。
この基準は、あらゆる専門的な業務にも当てはまる。「成果物が間違っているかどうかを、実際に見抜ける人物が関与しているか」ということだ。もし関与していないのであれば、AIが提示する自信ありげな回答を最終決定にしてはならない。
人が必要な会話もある
多くのタスクやアウトリーチは自動化可能であり、筆者自身もそうしている。しかし、人間関係が懸かっている場面において、人間の必要性が失われるとは思えない。
不満を抱くクライアントを例に挙げてみよう。迅速な返信は役に立つが、クライアントが通常求めているのは、耳を傾け、不満の理由を理解し、正しく対処する責任を負ってくれる人間だ。営業活動も同様である。見込み客は必要な情報をすべて得ていたとしても、自社のビジネスを託そうとしている担当者と直接話をしたいと望むことがある。
筆者は、対話を代替するためではなく、そうした対話の時間を作るために自動化を活用している。定型業務を削る目的は、従業員が集中力を要する重要な瞬間に十分な時間を割けるようにすることだ。創業者として、自社のビジネスにおいてどの瞬間が重要であるかを把握し、顧客が常に実行権限のある担当者に繋がる体制を整えておくべきである。
意図的な選択
AIに委ねようと考えているタスクを1つ選び、何を達成させたいのか、誰が結果を検証できるのか、そして失敗した場合には何が起こるのかを自問してみてほしい。さらに、人間が介在すること自体が顧客の支払う対価に含まれているかどうかも問いかけるとよい。
これらの問いを立てることで、それが自作すべきものなのか、専門家が必要なものなのか、あるいは人間同士の対話が必要なものなのかが見えてくるはずだ。
AIに対して野心的になるべき理由は十分にある。創業者には、かつては手が届かないと感じられたプロジェクトにも意欲的に挑んでほしい。しかし、ビジネスを保護するための専門知識を手放さず、ビジネスを支える人々のために時間を作り続けることも忘れてはならない。



