私の見方では、AIと企業をめぐる新たな分断は、AIを効果的に活用できる企業と、そうでない企業との間に生まれている。AIは企業の働き方を変革すると私は考えているが、それは必ずしも悪いことでも、恐れるべきことでもない。
AIを効果的に運用すれば、企業がチームの規模や部署を縮小する必要が生じるどころか、能力的な余力が生まれ、チームの中で創造性が開花する時間を確保できるようになる。また、AIガバナンスという新たな部署を生み出す可能性もある。AIを管理するには人間が必要であり、それはマシンではなく人間が担わなければならない役割だからだ。
私の考えでは、AIが雇用を奪うという語られ方は変わるべきだ。正しく使えば、AIはチームと生産性の成長を支援し得る。とりわけ、企業内のキャリアの入り口にいる人々にとってそうである。
AIはいかに「底上げ」できるか
職場におけるAIの最大の恩恵を受けるのは、最も優秀なパフォーマンスを上げている従業員ではないかもしれない。カスタマーサポート担当者5172人を対象とした研究によると、AIの導入により生産性は平均で15%向上したが、スキルが最も低い労働者では36%も向上した。さらにAIは、労働者が通常の経験を超えた問題に直面した際に最大の時間短縮をもたらした。最も頻度の低い問題に対する対話時間は、最も一般的な問題に対する10%の短縮に対し、15%短縮された。
なぜこのようなことが起きるのだろうか。筆者は、AIが学習曲線を圧縮するのに役立つからだと考えている。同じ研究では、AIのサポートを受けた入社わずか2カ月の労働者が、AIのサポートなしで6カ月以上の経験を持つ同僚と同等のパフォーマンスを発揮したことが示されている。したがって、AIがもたらす最大の機会は「天井を引き上げる」ことではなく、「底上げをする」ことにあるのかもしれない。
また、制御された実験ではAIによる生産性の向上が示されているものの、AIの影響を受ける11の職業に就くデンマーク人労働者2万5000人を対象とした研究では、2024年までの所得や労働時間に対して「有意な効果は見られなかった」とされており、タスクレベルでの生産性向上と、より広範な経済的影響との間に乖離があることを浮き彫りにしている。
したがって、AIの本質は人間を置き換えることではなく、人間の能力の分布を変え、学習にかかる時間軸を変化させることにあると筆者は考えている。
成功に向けて自社を位置づける
ビジネス界には、AIをめぐる疲弊感や恐れが広がっている。しかし、筆者はそれを脅威とは捉えておらず、収益の可能性を秘めたツールとみなしている。なぜなら、最終的に自社の脅威となるのはAIそのものではなく、すでにAIを活用している企業だからだ。
とはいえ、AIは認知機能や「現場の実務者」に取って代わるものではない。AIは自社内に拡張性のある仕組みを構築する手助けをするかもしれないが、それと並行して人間の専門知識が不可欠となる。経営陣による批判的思考が常にAIを評価すべきであり、その逆であってはならない。チームメンバーを犠牲にしてAIに注力するのではなく、AIシステムと人間のチームを深く結びつけ、相互に依存し合う関係を構築することが重要だ。
実務上、これは2つの点に集約される。
1. 判断責任と説明責任を人間に残すこと。 AIシステムをプロセスに導入する前に、指名された責任者がその結果に責任を持ち、システムが出力した内容に異議を唱え、覆せるようにしなければならない。AIが提示した情報に基づく意思決定に対し、誰が責任を負うのか明確に言えないのであれば、そのシステムはまだ運用段階にない。
2. アウトプット(量)ではなくアウトカム(成果)に注目すること。 AIを利用すれば成果物の量を増やすことは容易だが、それが価値を持つのは業務の成果そのものが向上した場合のみだ。したがって、既存のプロセスにAIを追加して実行スピードの向上を測るのではなく、リーダーはそのプロセスが何のために存在するのかを問い直し、それを中心にプロセスを再設計すべきである。このようにしてAIシステムと人間のチームは相互依存関係を築く。AIが処理量を担い、人間が判断力を維持し、AIによって生み出された時間は日常業務の渦中に消し去るのではなく、意図的に成長へと向けられるのだ。
したがって、伝えるべきメッセージは、現代のAI変革を恐れるなということだ。AIを活用し、統治し、チームの代替としてではなく、チームとともにより強いビジネスを築くために使うべきである。
リスクを理解する
だからといって、この変革にリスクがないわけではない。
ひとつのリスクは、AIが短縮する学習曲線そのものが完全にスキップされてしまうことだ。AIの提案をすべて鵜呑みにする経験の浅い従業員は、定型業務においてはベテランのように見えても、システムが誤った際には頼れる知識がほとんどない状態に陥る。そのためリーダーは、従業員に対してAIの支援を受けた決定の結果だけでなく、その判断の根拠まで説明できるように求めるべきだ。
2つ目のリスクは、ガバナンスの構築が導入の推進に遅れをとりがちである点だ。何が許可されているかが決定されるはるか前に、チームは会社が把握できないデータでAIの利用を開始してしまう。禁止令を出しても、その使用が水面下に潜るだけに過ぎない。
3つ目は、最も頻繁に目にするリスクであり、AI導入を人員削減の施策として位置づけることだ。それを行うと、企業が最も引き留めたい優秀な人材から真っ先に離職していく。彼らは自らの未来に何が起きるかを察知するからだ。
AI時代に繁栄する企業とは、最も多くの人間を置き換えた企業ではなく、より多くを成し遂げられるよう従業員に権限を与えた企業だ。AIは「フォースマルチプライヤー(能力増幅器)」として捉えるべきであり、単調な作業を排除し、学習を加速させ、能力を解き放ち、創造性や判断力、成長に集中するための時間をチームに与えるものである。真の競争優位性は、強固なガバナンスと批判的思考に支えられた人間の専門知識と、AIの能力を組み合わせることにこそ存在する。
企業へのメッセージはシンプルだ。働き方を変革し、AIを恐れるな。AIを活用・管理し、人を中心に置いた、より有能で生産的かつ収益性の高い組織を築くためにそれを用いてほしい。



