AI活用の失敗は、いまや業界の常識と化している。AIプロジェクトの95%は失敗に終わり、AI主導の人員削減を一巡させた企業は再び人的資本へと焦点を戻しつつある。銀行業界も例外ではない。金融機関の67%がAIを導入しているものの、その目的を把握しているのはわずか16%にとどまる。
それでも今日のリーダーたちは、AIから最大の価値を引き出せる領域を知りたがっている。だが、プロダクトロードマップを作成し、デモを依頼し始める前に、AI施策のためのフレームワークを構築する必要がある。その出発点は、「何をすべきでないか」を知ることだ。
チームの「5つの機能不全」
成長企業のCEOを8年間務めるなかで、筆者はパトリック・レンシオーニの著書『チームの5つの機能不全』(原題:The Five Dysfunctions of a Team)を軸にリーダーシップのアプローチを構築してきた。彼の論旨はこうだ。チームが失敗するのは才能の不足によるものではない。ピラミッドのように下位の行動の上に次の行動が積み重なる、5つの行動の連鎖によって失敗するのだ。
1. 信頼の欠如
2. 衝突への恐れ
3. コミットメントの欠如
4. 説明責任の回避
5. 結果への無関心
すべては信頼から始まる。チームに信頼がなければ、健全な衝突もコミットメントも、説明責任も、結果への関心も生まれない。AI戦略の失敗もこれとまったく同じパターンを辿ることに筆者は気づいた。確かな土台や、なぜAIを導入するのかという理由がなければ、そうした取り組みは崩壊する。
信頼がチームワークの土台であるなら、目的はAI戦略の土台である。もちろん、信頼はいかなるAI導入においても根幹をなす要素だ。しかし、信頼できるモデルを探し始める前に、「なぜAIなのか、なぜこの業務なのか」を問う必要がある。
以下は、現在多くの企業内で見受けられるピラミッド構造と、その解決策だ。
AI導入における「5つの機能不全」
1. 目的のないAI導入
大半のAI戦略は、誤った問いから始まっている。「どうAIを活用できるか?」という問いは野心的に聞こえるが、正しい問いはより限定的で答えにくいものだ。「私たちはどのような成果を変えようとしているのか?」収益、損失、処理時間、顧客体験など、投資の先には具体的な何かが存在しなければならない。目的がなければ、AIは「問題を探す解決策」に成り下がってしまう。
【解決策】「なぜ」を見極める:自社組織がどこで後れを取っているのか、そしてその理由は何かを監査する。データが不足しているのか、分析に時間がかかりすぎているのか、それとも両方か。チームにおける最大の課題は何か、なぜそれが存在するのかを問うのだ。
2. 「ハンマーと釘」の問題
企業がAIに投資すると、突如としてあらゆる問題がAIで解決すべき課題に見えてくる。自動化すべきプロセスもあれば、AIで補強すべきプロセス、あえて人間に委ねるべきプロセスもある。その違いを見極めることこそが、成熟したAIリーダーシップである。
【解決策】AIを「メス」として捉える:汎用的な大規模言語モデル(LLM)ではなく、自社の事業に影響を与える特定分野に深い専門知識を提供する、特化型AIツールを活用する。問題を診断したうえで、解決策の範囲を絞り込んでいくのだ。
3. 責任を伴わないインパクトの追求
組織は、AIが収益、損失、効率性、顧客成果、従業員の生産性を改善したかを測定するのではなく、モデルや実証実験(パイロット)、導入そのものを称賛しがちだ。「AIを導入した」というのはビジネスの成果ではない。
【解決策】すべてを測定する:四半期ごとのビジネスレビューを実施し、モデルの成果を追跡して必要に応じて再調整を行う。これらすべてが、AI施策の責任(アカウンタビリティ)を明確にする方法となる。
4. プロセスからの人間の排除
これは逆説的な主張に見えるかもしれない。AIの最良の活用法は、より人間らしい組織をつくることにあるのかもしれないのだ。情報処理や定型業務をAIに肩代わりさせることで、人間は判断、共感、人間関係の構築により多くのリソースを割り振れるようになる。
【解決策】人間をプロセス(ループ)内に残す:このアプローチでは、AIがデータの集約や分析といった負荷の大きい作業を担い、人間がその最終成果物をレビュー・監督する。これにより、効率性とアカウンタビリティの仕組みが生まれ、特にリスクやコンプライアンスが関わるAI主導の意思決定において効果を発揮する。
5. 「ゴールキーパー」のパラドックス
企業はイノベーションを求めると言いながら、組織の評価基準は挑戦して失敗した人を罰するようにできている。ゴールキーパーを失点数だけで評価するようなものであり、これでは突出した成果を達成することよりも、目立つミスを避けることに最適化された防衛的な組織が生まれてしまう。試行錯誤に不確実性がつきものである以上、AI導入はこのカルチャー上の問題を浮き彫りにする。
【解決策】スコアボードを変える:AIプロジェクトが失敗しても、誰かを責めてはならない。ステップ1で掲げた問題解決に一歩近づいたと捉え、再挑戦する。結果だけでなく、挑戦そのものに報いるべきである。
AI導入を成功させるために
これら5つの機能不全はいずれもAIそのものに原因があるわけではない。重要なのはまさにその点だ。モデル自体が優れていても、それを取り巻く組織が目的を設定せず、ガードレールを設けず、成果責任を追求しなければプロジェクトは失敗する。困難を乗り越えてAI導入を成功させる5%の企業は、最大の予算を持っていたりAIに巨額の賭けをしたりする企業ではなく、自らの機能不全を特定し、それを乗り越えていける企業なのだ。



