幹部育成パイプラインは「経験」の代わりにならない
教育分野とビジネス界の双方において、無視できないリーダーシップの危機が高まりつつある。判断力が最も求められる局面で、経験豊富なリーダーたちが現場を去っているのだ。
この現象は民間企業全体で起きている。経験豊富な経営幹部は、新任の幹部に比べて離職を検討する確率が40%近く高い。そしてこの数値は、経営層(Cスイート)の56%が今後2年以内に離職する可能性が高い、または極めて高いと回答しているという、ただでさえ懸念すべき現状の上に重なっている。
広がる「経験の空白」
CEOの交代劇もまた、経営幹部全般の離職傾向と同じ物語を映し出している。ラッセル・レイノルズ・アソシエイツの記録によると、2025年に世界全体で退任したCEOは234人に達し、過去8年間の平均を21%上回った。またスペンサー・スチュアートの集計では、S&P 1500企業におけるCEO交代は168件となり、2010年以降で最多を記録した。
公教育においても、一見すると明るいニュースの裏に同じような傾向が隠されている。大規模学区トップ500における教育長の交代状況に関するILO Groupの最新分析によると、直近1年間の交代率は低下した。過去1年間にリーダーシップの交代があった大規模学区はわずか17.4%で、前年の23%から減少している。
しかし、その表面的な数字の裏を見ると、手放しでは喜べない実態が浮かび上がる。パンデミック前は、退任する教育長のうち在任期間が6年以上の層が占める割合は全体の約26%だった。しかしそれ以降、その割合は一貫して約3分の1以上を占め続けている。今年は退任した教育長の34%が、6年以上の経験を持つベテランだった。
経験豊富なリーダーシップの喪失は、リーダーシップの発揮自体が困難さを増している局面において、実証済みの確かな実行力を失うことを意味する。
「経験」を失うコスト
公教育では、トップの安定がもたらす影響がはっきりと見て取れる。ILO Groupの同分析によると、離職率が低い学区ほど、パンデミック後の期間において生徒の学力が全体的に高い傾向を示した。同様にビジネス界においても、ガートナーの調査によれば、経営陣の在任期間が長い企業ほど、売上高や顧客体験(CX)などの指標で優れたパフォーマンスを示したという。
そして、ベテランリーダーの価値は増すばかりだ。あらゆる分野の幹部が、労働環境の混乱、財政・経済的プレッシャー、政治的変動、消費者ニーズの変化、AI(人工知能)の急速な普及への対応に追われている。教育現場ではこれに加えて、長期化する学力回復の課題、児童・生徒数の変動、そして厳しい世論の監視に直面している。実績あるリーダーを引き留めるためにさらなる対策を講じるべきまさにその時に、リーダーシップに求められる複雑性が増しているのだ。
だからこそ、官民を問わず、リーダーシップの開発、引き留め、そして引き継ぎ(トランジション)に対するアプローチを再考する必要がある。
リーダー支援の本末転倒
大半の組織は、人材が経営幹部の地位に就くまでの準備に投資の大部分を傾けている。次世代リーダーには研修が提供され、有望な従業員は育成プログラムに参加し、新任幹部には移行支援が行われる。しかし、意思決定の難易度が増すにつれて、受けられる支援はむしろ手薄になっていくのが実情だ。
リーダーシップ開発や将来のリーダーのパイプライン(育成ライン)への投資が不可欠であることは言うまでもないが、最上位のリーダーに対する支援を放棄することは筋が通らない。
事業再編、大型買収、あるいは技術的破壊への対応を判断するCEOは、キャリアの初期段階よりも明確な答えが少なく、はるかに重大な影響を及ぼす決定を下している。同様に、新校の開設や学区の再編、あるいは急速に変化するAI技術に関する方針策定を判断する教育長も、まったく同じ状況に直面しているのだ。
プロ領域に達したからといって、トップアスリートがコーチングを受けるのをやめることはない。それどころか、コーチングはより洗練されたものになる。教育やビジネスにおけるリーダーシップも同様であるべきだ。
スタンフォード大学の最近の調査によると、CEOの58%がプロのコーチを活用しており、これは10年前から大幅に増加している。また95%がコーチングか信頼できる社外アドバイザーのいずれかを頼りにしているという。これは重要な変化を反映している。トップリーダーへのコーチングは補習や是正措置と見なされるべきではない。それはパフォーマンスを支えるインフラなのだ。立場が高くなるほど、本人の前提条件に異議を唱えたり意見したりできる周囲の人間は少なくなる。優れたコーチングは、疑問を呈し、押し返してくれる場を提供する。しかし、私たちはさらに一歩進むべきだと考える。
意思決定のためのより優れた手法が必要
リーダーシップ開発において最も有望な分野の一つが「意思決定科学(ディシジョン・サイエンス)」であると筆者は考えている。
意思決定はスキルであり、スキルは訓練によって向上させることができる。これは自明に思えるが、現在のリーダーシップ開発システムは、この現実を十分に織り込んでいないことが多い。
経営幹部は不確実性の中で日々、重大な決断を下している。それにもかかわらず、決定をどのように問題設定するか、実行可能な代替案を生み出すか、自らの前提を覆す情報を探すか、確率を理解するか、認知バイアスを認識するか、そして決定の質とたまたま得られた結果の良し悪しを区別するかといった点に明示的に焦点を当てたリーダーシップ開発は、比較的少ない。
企業などの雇用側はすでに、こうした能力の価値を認識している。アライアンスとバーニング・グラス・インスティテュートによる680万件の求人情報の分析によると、求人の41%が意思決定能力を要求していた。管理職の求人に限れば、その割合は55%に達する。
経験、コーチング、そして意思決定科学の組み合わせは非常に強力であると確信している。経験はパターン認識力をもたらす。コーチングはそのパターンに異議を唱える存在を提供する。そして意思決定科学は、アイデアを検証し自信を持って前進するための規律ある手法を提供する。
次世代を育てつつ、ベテランを引き留める
組織が次世代のリーダーを育成することは絶対に不可欠だ。しかし、サクセッション・プランニング(後継者育成計画)だけでリーダーシップ戦略のすべてを網羅することはできない。
取締役会、企業、そして公的機関は、すでに最大の責任を担っている人々に対しても、同様に意図的な投資を行うべきだ。それには、エグゼクティブ・コーチング、信頼できるピア(同業者)ネットワーク、体系的な意思決定の訓練、そして取り返しのつかない事態になる前に重大な選択を検証する機会などが含まれる。
質の高いリーダーシップ・パイプラインが存在したとしても、自らが育成し昇進させた優秀なリーダーを使い潰し続ける組織の課題を克服することはできない。長期的な成功には、次世代を育成する能力と、すでに最大の責任を担っているリーダーへの真の投資の両方が不可欠である。
つまり、経験豊富なリーダーたちが向上し続け、牽引し続け、その真価を存分に発揮できるだけの長期間にとどまれるよう、必要な支援を提供するということなのだ。



