2030年に期限を迎えるSDGs。その次をめぐる議論が始まろうとしている。2015年のSDGs策定以降、ビジネスの世界ではサステナビリティが経営アジェンダに浮上し、脱炭素を軸にグリーンエコノミーという巨大市場が立ち上がった。だがルール形成を主導し、いち早く事業機会を掴んだのは欧米企業であり、多くの日本企業は追従を余儀なくされてきた。
次なるゲームの土俵において、日本に勝機はあるのか。今度こそ先手を取るためのヒントとは。以下は、野村総合研究所 政策・戦略研究室の磯谷允亨(いそや・まさゆき)研究員による寄稿である。
ポストSDGsの幕開け──迫るゲームチェンジ
ポストSDGsの議論が2027年に本格化する。既に国連では同年9月からの国家間交渉の開始で合意している。さらに、同年1月には国連事務総長も交代し、新体制の下で議論が一気に進むとみられる。では、ポストSDGsは何に焦点を当てるのか。
グリーンエコノミー。GX(グリーン・トランスフォーメーション)──こうした言葉が生まれてきたように、SDGsの時代にビジネスの世界を大きく変えたのは、脱炭素を始めとする環境テーマだった。理由はふたつある。第一に、SDGs策定と同じ2015年にパリ協定が採択され、脱炭素に強力な政治的推進力が生まれたこと。第二に、脱炭素にはGHG(温室効果ガス)排出量という世界共通の物差しがあったこと。ひとつの物差しで測り、比較できたからこそ、市場化が急速に進んだのだ。
ところが2020年代に入ると、パンデミック、戦争、AIの急速な台頭、と世界を揺さぶるショックが相次いだ。人々のつながりは薄れ、公的機関への信頼は下がり、社会全体が疲弊してしまった。さらにAIは人間の主体性まで侵食し始めている。こうした社会の傷みは、GDPや利益といった今の世界の測り方では十分に認識することができない。
そこで国連において、GDPを補う新しい物差しである「Beyond GDP」の検討が急速に進んでいる。国連事務総長が任命した専門家チームは2026年5月、報告書「大切なものを測る(Counting What Counts)」を発表し、GDPを補完する22のテーマと31の指標を示した。注目すべきは社会テーマの多さだ。22テーマのうち18が社会テーマで、主観的ウェルビーイング(幸福度)や社会的結束(人々のつながり)、社会関係資本、制度資本といった、従来の経済指標にはなかった言葉が並ぶ。
Beyond GDPテーマの構成
この報告書は、SDGsと無関係ではない。SDGsには「GDP以外の指標を開発する」という目標(ターゲット17.19)があり、Beyond GDPの検討はその宿題に答える動きなのだ。そのため、Beyond GDPで注目されている社会テーマは、ポストSDGsの基盤になると見てよい。



