テクノロジー

2016.01.02 11:20

世の中の何が「普通」?メディアではなく親が子どもに教えてあげられること [Part2/2]

Iryna Rasko / Shutterstock

バケーションというのは、人々に消費させるのが基本だ。そこではレジャーや安らぎ以上の価値を売り続け、充実した人生を象徴させるようなマーケティングを行う。バケーションでは、一人ひとりにとって特別な意味をもつ感動や経験があらゆるサービスに体現され、安らぎや自由、余暇の気分を思う存分味わえるようになっている。アメリカの偉大な話し手であるウォルト・ディズニーがあれだけホスピタリティ溢れる王国を築き上げられたのは、彼が他のだれよりも、例外的なアメリカの家族形態についても細かいニュアンスまで深く理解していたからだ。1955年のカリフォルニア州アナハイムのディズニーランド開園に先立ち、ウォルト氏はこう述べた。「ディズニーランドは世界中の人々にとって喜びやインスピレーションの源になれるよう、このアメリカを創造した思想や夢、困難な現実のすべてにその理念を捧げる」。

オンラインの旅行サイトから購入できるパッケージツアーは、ディズニーの理念と比べると透明性に欠けるとはいえ、その目的はアイデアや夢によるところが大きい。ドミニカ共和国のビーチに座って、「完璧な」2人の両親と子どもで構成される家族たちに囲まれながら息子たちが砂浜で遊んだりヤシの実から水を飲んだりしているのを見ていると、私はどうしてもリゾート地特有のアイデアや夢に共感できなくなっていた。しかし一方で、息子たちは私が子どもの頃と比べれば、世間一般の「普通」の基準から私たち家族の形態を変だと感じる度合いは低いということには、少なからず安堵を感じていた。

私たち家族が滞在していたリゾート地を出てすぐの一角では、リゾート地とは全く異なる環境で地元住民が暮らしていた。ドミニカ共和国の人口の3分の1は貧困層であり、20%は1日1.25ドル以下で暮らす極貧層だ。世界銀行の試算では、全世界人口の実に9.6%は国際基準で貧困層とされる1日1.9ドル以下の生活を強いられている。
オクスフォード大学が世界の75%の人口を対象に健康や教育、生活水準や仕事の質という項目を設けて行った調査によると、貧困層は30%に上った。さらにインターネット上で私の収入や資産が世界中でどのくらいの位置付けにあるか調べたところ、アメリカ国内では標準的な収入であるにも関わらず、世界でみれば上位0.05から0.08%にあることが分かった。家族形態が何であれ、私と息子たちは旅行に出かけられるだけの経済力があるのだということを思い知った。


「普通」ということと、両親の離婚とは全く相関性はなく、旅行業界が掲げる完璧な家族像に無理やり自分たちを当てはめる必要はない。なにより私は、息子たちにドミニカ共和国における「普通」を自分たちの目で確かめてほしかった。だから私はプンタカナで文化ツアーを企画運営するカナダ国籍のマイクにコンタクトし、息子たちにドミニカ共和国で暮らす同年代の子どもたちがどのような生活を送っているか体験させたいと話した。マイクは快諾してくれた。

マイクはSUVで私たち家族を近郊に連れて行ってくれた。最初に訪れた村では、2人のハイチ人の女の子が学校の外で一日中ブラブラとしているのを見かけた。彼女たちはドミニカ共和国の違法移民であるために学校に入れてもらえないのだ。しかし学校は私たち家族のことは校内に迎えた。マイクは地元学校設立に携わった教員を紹介してくれた。学校は「世界に忘れ去られたような子どもたちに質の高い教育を提供している」という。マイクはこの学校の一職員のような存在として定期的にツアー客を連れてくることによって、子どもたちが外の世界を知る機会を得られるうえ、裕福なツアー客からおもちゃやコンピュータ、本や様々な備品を送ってもらえるという。学校の子どもたちと1時間ほど交流した後、息子たちはアメリカに帰ったらドミニカ共和国の子どもたちに備品を送ろうと言い張った。父親として息子たちを誇りに感じた。

ツアーの最後、マイクは地元のレストランに連れて行ってくれた。そのレストランに水道水はなく、あるのは台と料理用の火だけだ。そこでの食事は、プンタカナで食べた中で一番美味しかった。息子たちは地元の漁師が釣りたての魚をトラックに積み込むすぐそばで砂遊びをしていた。マイクと私は、ビールとラムをちびちびと飲みながら、北米の政治状況やシリアの難民問題、そしてアメリカの外交政策が世界の貧困層に与える影響について語り合った。

翌日、リゾートのビーチのサンシェードの下で、私は息子たちに今回のツアーの感想を聞いた。10歳の息子は「おもしろかった」と言い、8歳の方は「スペイン語を話せたら子どもたちともっとたくさんお話しできたのに」と言った。

たった一度の旅で息子たちが博愛主義者になるとは期待していない。毎日自分たちは世界でも恵まれた境遇にいるのだと実感してほしい、などとも思っていない。日常生活でビデオゲームをめぐって兄弟げんかをしたり、「変な形だから」といって与えられた食べ物を食べないと駄々をこねたりするときに、ドミニカ共和国で出会った子どもたちの境遇に思いを巡らせることができるかどうかは疑わしい。それでも、少なくとも今回の旅を通じて、息子たちには見せかけではない「普通」を見分ける視点を養わせることができたものと信じている。


編集=Forbes JAPAN 編集部

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