アンソロピックとOpenAI、IPOで比べるべきは売上高だけではない
生成AI企業は、競合他社の動きに続くようにAIモデルを更新することが多い。アンソロピックのIPOが進むことで、OpenAIの株式公開を見据えた比較にも注目が集まる。
OpenAIは2026年6月、米国でのIPOを非公開で申請したが、アンソロピックのようなS-1登録届出書は公表していない。ロイターは2026年10月、OpenAIが1兆4000億ドル(約220兆円)超の企業評価額を想定し、約300億ドル(約4兆7200億円)の追加の未公開資金調達を目指していると報じた。
OpenAIの財務状況は、アンソロピックほど詳しく明らかになっていない。ロイターによると、OpenAIは2026年10月、売上高の年率換算値が約500億ドル(約7兆8700億円)だと投資家に説明した。アンソロピックの第3四半期の年率換算売上高は約670億ドル(約10兆5500億円)と報じられている。ただし、両社の数字はそのまま比較できない。
同じクラウド販売の事例で、計上する売上高に25%の差が出る理由
米ニュースサイト「Axios」は、両社がクラウド事業者経由の売上高を異なる方法で計上していると説明した。例えば、顧客がクラウド提供会社を通じてAIモデルに100ドル(約1万5700円)を支払い、その会社が20ドル(約3100円)を受け取る取引を考える。アンソロピックは100ドル全額を売上高に、20ドルを費用に計上するが、OpenAIは受け取る80ドル(約1万2600円)だけを売上高に計上する。
両社が他の費用を差し引く前に受け取る金額は同じ80ドルだが、アンソロピックの売上高はOpenAIより25%大きく見える。会計処理の違いによるもので、どちらかが必ずしも誤りというわけではない。表面上の売上高だけで比較すると、実際の事業活動の規模に差があると誤解しかねない。
OpenAIの個人向け基盤とアンソロピックの法人事業は、それぞれ収益力を証明できるのか
事業戦略にも違いがある。OpenAIはChatGPTの高い知名度と幅広い個人利用者、開発者向けの製品・サービスを取り巻く環境、拡大する法人事業を強みとする。アンソロピックは、ソフトウェア開発を支援する「Claude Code」を含め、法人向けAIやソフトウェア開発分野で強みを築いてきた。
OpenAIが財務情報を公表する際には、幅広い個人利用者を抱える事業が、計算資源や製品開発、販売経路、インフラの費用を差し引いても十分な利益を生み出せるのかが問われる。投資家にとって、サービスの知名度や利用者数は、収益性そのものの証拠にはならない。
アンソロピックのIPOにより、両社の比較は避けられなくなる可能性がある。特に、上場市場の投資家がClaudeを提供する企業に付ける評価額と、未上場市場でChatGPTを提供する企業に付けられている評価額が大きく異なれば、その違いが注目される。
実際にAIの需要があっても、巨額の設備投資を回収できる保証はない
AIへの需要が実在することを示す材料は十分にある。アンソロピックの売上高は急増し、法人顧客も増えている。最先端AIを、商業的な需要のない投機的技術にすぎないと見なすのは難しい。黒字化の可能性が見え始めたことも、AIバブルの崩壊を懸念する投資家には好材料となる。
しかし、実際に需要があることと、投資家が支払おうとしている企業評価額が妥当であることは別問題だ。バブルのリスクは、将来の売上高と、その売上高を生み出すために必要な巨額の資本の間に隔たりが生じる点にある。
AI提供企業は利用増を、設備供給企業は発注継続を見込んで投資する
AI業界は、需要が伸び続けるとの予測に基づいて膨大な計算能力を整備している。AIサービスの提供企業は、モデルの進化が新しい用途を生み、顧客の支出を増やすと期待する。インフラ供給企業は、AI企業が半導体やネットワーク機器、計算サービスを買い続けると見込んでいる。各社の投資判断は、取引先も予想どおりに動くという想定に大きく依存している。
法人によるAI導入が鈍化したり、モデルの価格が費用より速く下がったり、整備したインフラが十分に使われなかったりすれば、企業間で共有されている成長の前提が崩れかねない。
アンソロピックの開示情報は、最先端AIが巨額の売上高を生み出し、営業成績を着実に改善できることを示した。ただし、1兆ドル単位の企業評価額や桁外れの長期的な資金負担に見合う利益を、AI事業が継続して生み出せることまでは証明していない。市場の根本的なリスクはなお残っている。


