Forbes JAPAN 2026年12月号は、AIで人的資本を拡張している「本当に強い会社」2026特集。今回、Forbes JAPANは東京証券取引所に上場している企業のうち、分析に必要なデータを取得できた3,531社を対象に、AIを自社の売上高や利益に結びつける「実装力」を評価する「拡張人的資本ランキング」と、AIやDXへの投資が将来の収益化につながる可能性の高さを評価する「AI/DX先行投資力ランキング」を作成した。AI時代に、「本当に強い会社」とは、どんな企業なのか。上位企業を率いる経営者たちの言葉と具体的な取り組みから、その条件を解き明かす。
プラントの生産制御システムにAIを統合し、「フィジカルAI」の真骨頂に挑む横河電機。熟練労働者の技術伝承を支える150体のAIで、日本全体の人的資本の拡張を見据える。
「フィジカルAI」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、人型ロボットがモノを運んだり、作業したりしている様子だろう。だが、横河電機社長の重野邦正が考えるフィジカルAIの姿は様相が異なる。プラントの奥深くでバルブを開閉させ、化学プラントの安全と安定を握るAIーーこれが、重野が率いる横河電機のフィジカルAIの姿である。
横河電機は計測、制御、情報をコアコンピタンスにもつグローバルな電機メーカーだ。なかでもオイル&ガス、化学プラントのプロセス制御システムが強みで、2026年3月期連結決算の制御事業の売上高割合は約93.5%(5,655億円)にのぼる。
現在、同社が収益拡大に向けて最も力を入れているのが、50年以上の歴史をもつ統合生産制御システム「CENTUM」にAIを統合し、周辺技術と合わせて提供する自律制御AIソリューションだ。作業の効率化や環境負荷の軽減といった課題に直面する顧客に対して、プラントの既存設備を生かしながら安全かつ定量的な成果をもたらす最新ツールである。
22年にJSRの化学プラント(現在はENEOSマテリアルが保有)に世界で初めて、横河電機と奈良先端科学技術大学院大学が共同開発したアルゴリズム
「FKDPP」を活用した自律制御AIソリューションを実装した。ベテランの運転員が手動で制御していたバルブ操作量をAIが判断し、入力する。こうすることで、現場で働く人たちの作業負荷を軽減するとともに、品質の安定化や、蒸気の使用量とCO2排出量の40%削減を実現した。稼働を始めてから今日に至るまでの4年以上、安定稼働しながら省エネとコスト削減に貢献している。
25年には、サウジアラビアの総合エネルギー・化学会社アラムコのガスプラントに、相互に連携する複数の自律制御AIを導入。工場で発生する酸性ガスの除去操作を直接かつ自律的に制御・最適化し、エネルギーと化学物質の使用量削減を実現している。25年にはアミンや蒸気の使用量を10~15%、電力使用量を約5%減らすことができたという。
実は、アラムコの案件は重野が中東に駐在していた時に手がけた契約のひとつだ。「3つ目の提案でようやく(自律制御AIソリューションを)入れてもらえた」。現時点で、ブラジルや中東諸国を含めグローバルで引き合いがあるという。
AIソリューションの開発・適用に積極的な横河電機だが、実際のところ、AIは同社の売上高や収益性にどのくらい貢献しているのだろうか。
「投資家からも同じ質問をしょっちゅうされますよ」
苦笑しながら、重野は続けた。
「我々は制御が得意領域で、その発展形として高度制御も手がけてきました。もともとあった自分たちの強みにAIをかけ算することで、より高度な制御ソリューションを提供することが可能になり、ビジネス全体をブーストできる。AIだけを売っているわけではないのです」



