感情とアクセントの再現には、人の修正が欠かせなかった
サーニーによれば、英語の翻訳音声を自然に仕上げるには、修正を繰り返す必要があった。「AI音声で特に手間がかかったのは、大統領の感情表現とアクセントを保つことです。何度もアメリカ英語風のアクセントに変わってしまったため、声に一貫性を持たせるために該当部分を差し替えました」。
制作陣は音声トラックを10版超作り、話し方を調整した上で公開版を選んだ。内容の正確さについても、人間が複数の段階で確認した。
通訳者と編集者が、発言の意味と沈黙を確認
「英語の台本は、収録時の通訳者による訳を基に作りました。その後、通訳者が正確さと文脈を再確認し、最後にウクライナ人編集者が意味と語調を確認しました」とサーニーは語る。
制作陣が確認したのは、訳語が正しいかどうかだけではない。「とりわけ重要だったのは、話す間と息遣いです。例えば、大統領が家族の話に入る前に黙る場面があります。その沈黙は多くを語っているので、失いたくありませんでした。人工的に聞こえないこと、本人が語っていない言葉や本人にない感情を付け加えないことが、すべての目的でした」。
多言語配信にかかる費用を考える際には、通訳者など言語の専門家と編集者による確認作業も含めなければならない。制作陣は翻訳した言葉の意味だけでなく、声の調子や間を通じて、元の発言がどのように伝わるかにも気を配る必要があった。
ロンドンとロサンゼルスの制作陣、短納期で品質を管理
制作の締め切りは厳しかった。サーニーによると、多言語音声の制作は収録の2時間後に始まり、ロンドンとロサンゼルスのチームが時差をまたいで週末を通して作業した。
「台本、英語とウクライナ語、その他25言語の音声トラック、編集、映像、最終納品物まで、あらゆる段階で確認と品質管理を行いました」とサーニーは最終工程を振り返った。
私には、このインタビューが、制作者によるコンテンツと世界規模の配信を組み合わせる力を示しているように思える。1人の好奇心を軸とする番組が、世界中の視聴者・聴取者、制作チーム、技術力を育て、紛争のさなかにある国の大統領との対話を、言語と大陸を越えて届けられる。
番組の対話形式、視聴者・聴取者との関係、多言語配信という3つの強みは、互いを強め合う。長時間の対話が出演者に深く語る場を与え、番組と視聴者・聴取者の関係が耳を傾ける理由を生む。多言語配信によって同じ対話がさらに広く届き、出演者と受け手の双方にとって魅力的な機会となる。


