ゼレンスキーの母語を尊重し、英語の質問を通訳でつなぐ
多言語配信では多くの場合、英語で制作された番組を海外の視聴者や聴取者に向けて翻訳する。今回の『The Diary Of A CEO』では、ウクライナ語で収録した発言を英語に訳して届けるという、逆方向の制作にも取り組んだ。
エグゼクティブプロデューサーのハンス・サーニーは「英語以外の言語でインタビューを収録し、番組の視聴者・聴取者の大多数に向けて英語に訳したのは初めてです」と語った。
司会のスティーブン・バートレットは英語で質問し、ゼレンスキーは通訳者の支援を受けながらウクライナ語で答えた。ダンバー・ネルソンによると、バートレットは大統領がつらい経験を話す際、頭の中で英語に訳してから話す必要がないようにしたかった。
「大統領が家族や国民、祖国が経験してきたことを話すのなら、別の言語でどう表現すればいいかを先に考える必要はありません。ウクライナ語なら、そのまま言葉にできます。声の調子や話す間、本人の声を通じて、エピソード全体から言葉の重みが伝わります」。
英語の質問とウクライナ語の回答が自然につながるよう、収録現場での準備も必要だった。ダンバー・ネルソンは「英語とウクライナ語のやり取りをすべて通訳する必要がありました。スティーブンと大統領が自然に会話を続けられるよう、現場で円滑に進めなければなりませんでした」と振り返る。
字幕では届かない聴取者に、AIで大統領の声を再現
サーニーによると、制作陣は4つの方法を検討した。字幕を付ける方法、通訳者が話した音声を使う方法、声優に吹き替えてもらう方法、ゼレンスキー本人の同意を得てAIでその声を再現する方法だ。
サーニーは、英語音声を中心に据えた理由をこう説明した。「動画を視聴するよりも、音声で聴く人が多いからです。通勤中やジム、散歩中に聴く人もいれば、他の作業をしながら別の画面で動画を流す人もいます」。
字幕は画面を見続けられる人には役立つが、車の運転中や運動中に音声だけを聴く人には役立たない。映像と音声を両方配信する番組では、視聴者と聴取者の利用場面を分けて考える必要がある。
制作陣は、ゼレンスキーの話し方をどう伝えるかも重視した。「AIで生成した英語音声を選んだのは、別の人が代わりに話すよりも、大統領本人の声を聴く体験に近づけられると考えたからです。声の特徴や感情の込め方を保てると思いました」とサーニーは語った。
収録した元のウクライナ語音声も、YouTubeで別の音声トラックとして提供された。配信されたエピソードの説明欄には、AI音声技術を使用したこと、本人の許可を得たこと、人間が翻訳と編集内容を確認したことが明記されている。
多言語音声が届く市場は大きい。YouTubeが2025年9月に公表したデータでは、複数言語の音声を投稿する制作者が配信する動画の総視聴時間のうち、同年7月時点で平均25%超が主要言語以外の音声による視聴だった。ただし、吹き替えによって総視聴時間が同じ割合だけ増えたことを示す数字ではない。


