アート

2026.10.28 14:15

28歳で世を去った天才画家、エゴン・シーレが今の時代に問いかける「本質」とは?

エゴン・シーレ『ほおずきの実のある自画像』(1912年, fine art / Getty Images)

エゴン・シーレ『ほおずきの実のある自画像』(1912年, fine art / Getty Images)

ビジネスとアートが交わるとき、そこには経済や社会を変える原動力が生まれる──。政財界の要人に関する重厚なノンフィクション作品を世に送り出してきた作家、児玉 博による新連載「児玉 博のINSIDE ART」。
第二回は表現主義の巨匠、エゴン・シーレ。世紀末のウィーンで人間の内奥を描き続けた天才画家と、デジタル時代の到来をいち早く見通し、ソニー変革を主導した出井伸之。アートと経営、異なる世界を生きたふたりには、通底する視点があった。

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2023年、大規模なエゴン・シーレの回顧展、『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』が都内で開催され、代表作『ほおずきの実のある自画像』をはじめ、約50点のシーレの作品が展示された。シーレは19世紀末のウィーンに生まれ、その生涯は28歳と短いものだった。しかし、「表現主義」(※)の巨匠と呼ばれるように、その作品は今も影響をもち続けている。

オーストリア・ウィーン生まれの眼科医だった夫ルドルフ・レオポルドと妻エリザベスのふたりが、エゴン・シーレやグスタフ・クリムト、オスカー・ココシュカなどといった帝政末期のウィーンを代表する画家たちの絵画などを収集し始めたのは、1950年頃から。所蔵品はおよそ6000点にものぼった。この膨大なコレクションをもとに、レオポルド美術館がウィーンにオープンしたのは、2001年のことだった。

夫妻からシーレの小さなデッサンを譲り受けたある日本人によれば、エリザベスの佇まいはまるで、“欧州最後の貴婦人”のようだったという。そんな彼女の魂を鷲掴みにしたのが、シーレの作品だったそうだ。

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「気高さという言葉は、エリザベスのためにあるのではないかと思ったほどでした。そのエリザベスがシーレを語るときは、さながら少女のように、ときめきを隠そうとはしなかったですね」

そのエリザベスも一昨年、他界した。

シーレの大規模な展覧会は久しぶりだった。それがゆえか、会場となった東京・上野の東京都美術館には長蛇の列ができ、来場者は24万人を超えた。日本で初めて本格的にシーレの展覧会が開催されたのは、1979年、東京・池袋の西武美術館においてだった。以来、シーレの圧倒的な存在感は日本人を魅了してきた。

けれども2023年、都美術館に並ぶシーレ作品に注がれる日本人の視線は、従来のそれとは少し異なっていたように思える。多くの若者が、食い入るようにして作品の前で立ち止まっていた。一体、シーレ作品の何がそこまで若者を引きつけたのか? 会場に足を運んだ多くのアーティストが後に、シーレから強いインスピレーションを得たと吐露していた。

なぜ時代はシーレだったのか?──2020年以降、世界は未曾有のコロナ禍を経験した。それは今までの日常生活には存在しえなかった、ある“非日常”を顕在化させた。それは“死”であり、死への“恐怖”だった。

死は恐怖を招く。しかし、死は死者への鎮魂であり、それゆえに“生”への継続と希求を生む。だからこそ、日常生活のなかに存在せねばならない。ところが日本ではいつしか、日常生活のなかから“死”は見事なまでに消毒され、無臭化され、透明化されていった。

人々にそんな“死”を強烈に意識させ、恐怖を抱かせたのが「コロナ禍」だった。透明化されたはずの死は、すぐ真横にある問題として私たちに生々しく迫り、その恐怖が国全体を包んだ。こうした経験からようやく抜け出した頃に、日本にやってきたのがエゴン・シーレだった。

100年以上前のシーレが描き出す、剥き出しの“死”と“生”。生々しい“矛盾”と“理不尽さ”。シーレは我々に、人間の本質を問うていた。“死”とはなにか? “生”とは何か? “矛盾”とは何か……?

1979年、当時まだ早稲田大学の学生だった私は、エゴン・シーレ展を観に西武美術館へと足を運んだ。そのときに買い、手元に残しておいた図録がある。それを紐解くとき、ひとりの人物を思い出す。

※ 20世紀初頭に欧州で広がった芸術運動で、「目に見える世界を写実的に描くのではなく、画家の内面的な感情や精神状態(不安・葛藤・歓喜など)を表現することを重視したスタイル。

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文=児玉 博

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児玉博のINSIDE ART──ビジネスとアートが交わるとき

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