主な活用事例
ヘルスケア分野において、AIは具体的にどのような役割を果たしているのだろうか。シャーは、以下のような機能を挙げた。
手術前の指示や退院後のフォローアップ
患者が手術を受ける前に何をすべきか理解するのに助けが必要な場合、AIは必要な場面でその支援を提供できる。術後の在宅ケアについても同様だ。人間がこれらすべてに対応できない場合でも、AIが具体的な指示を提供することで、治療結果の向上や回復期間の短縮などにつなげられる。
服薬指導
薬は種類も多く、使用法や注意事項もさまざまだ。医師や看護師が毎日患者に対応して、そのすべてを説明できなくても、AIによる相談サービスが対応できる。
臨床現場での安全確認
AIは、臨床現場で質の高い医療を実現するための確認や評価を遂行する上でも、優れたツールとなり得る。シャーはインタビューの中でこう述べている。
「我々は実際に、シュミット=トンプソン(Schmitt-Thompson)プロトコルと呼ばれる手順を実施している。これは、米国の看護師によるトリアージ(緊急度判定)コールセンターの95%が採用しているプロトコルだ。何か問題が発生した場合には、『シュミット=トンプソン(プロトコル)に従って対応した』と言うことができる。これは、医療を提供する機関にとって標準的な対応の一つであり、法的責任を問われるリスクをある程度抑えることにつながる」。AIは助けになる、とシャーは語った。
レゼンデスは、こうした安全確認の作業は、以前から医療現場で実践されてきたと指摘した上で、次のように応じた。
「それは、ごく単純なものだったりもする。ジョンズ・ホプキンス大学で考案された、手術時のチェックリストが思い出される。どちら側の腕や脚を手術するのか確認したり、左右を取り違えないよう実際に印をつけたりというだけのリストだ。(中略)こうした非常にアナログな冗長性がシステムに組み込まれていて、それが組み込まれていること自体が一定の安心感につながるが、同時に、そろそろ再発明が来てもいい分野のようにも思える」
ハイリスク患者の受診促進
もう一つの活用事例は、リスクの高い患者に対して、健康状態を確認するための重要な受診を促すことだ。この点においても、AIは力を発揮することが明らかになっている。
シャーは、具体的な数字を交えて語った。「AIの説得力は優れていた。(これまでフォローアップ検査の推奨に応じていなかった1700人に連絡をとったところ)252人が検査を予約し、180人が実際に来院した。重大な所見が9件あり、そのうち3件はがんだった。(中略)AIは、常に患者に寄り添って対応し、決して冷静さを失わない」
術前と術後の支援を別々に数えるなら、以上で5つの活用事例となる。
明るい展望
「AIの世界は、潮が満ちて船が浮き上がるように、誰にとっても追い風となっている状況だ」とシャーは語った。しかし、「我々は、(誰かが得をすれば、誰かが同じだけ損をするという)ゼロサム思考に慣れきっているため、そのように考えることは通常ない。(中略)だが、毎日自分を見守ってくれて、より健康になれるよう支援してくれる存在を誰もが持てるとしたら、どのようなことが起きるだろうか」
実際どのようなことが起きるのか――その答えを今、我々は目にしつつある。今後の展開が注目される。


