カルチャー

2026.10.28 15:45

なぜ200年前のシルクに勝てないのか 細尾真孝と北野宏明が探る「革新の原点」【第1話】

アノマリーが、上流をさかのぼらせる

ここからが、発見が行動になる瞬間だ。

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細尾が率いるHOSOOは、「More than Textile」を掲げ、誰も見たことのない織物を追求してきた。その究極を突き詰めていくと、織り方でも構造でもなく、素材そのもの――シルクの質に行き当たる。シルクとは、細尾にとって何なのか。彼は、このプロジェクトの射程を、シルクの歴史そのものから語り起こす。

「もともとシルク、絹自体が、我々西陣織にとっては千二百年前から、非常に素材としてずっと扱ってきたものであると。で、シルクの歴史だけで言っても六千年の歴史があると言われておりまして、ある意味人類とともに、しかも黄金と、シルクロードがあったように、金と等価、金のような価値を持ちながら、様々な人々の文化の交流だったり、そういった歴史を繋いできたという、背景があるものがシルクかなと」(Session 2, 01:16)

6000年、金と等価。文化をつないだ糸。その壮大な歴史と裏腹に、足元の現実は厳しい。いま日本で着物に使われるシルクは、その99.5%が輸入で、国産はわずか0.5%以下。しかもこれは最近の話ではない。

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「これは本当にここ数十年の話じゃなくて、本当にこの百年の中で変わってきた。今から百年前、日本は世界最大の養蚕大国であったということでもあります」(Session 2, 01:16)

世界一から、ほぼゼロへ。良いシルクをつくろうとすれば、良い糸が要る。良い糸には、良い繭が要る。良い繭には、良い蚕と、良い桑と、良い土が要る。問いは、織機の前から、製糸へ、養蚕へ、桑畑へ、土壌微生物へと、否応なく上流をさかのぼっていく。一個のアノマリーが、産業の根まで降りていく梯子になった。

その梯子の先に立ち上がったのが、京都・与謝野町に拠点を構える KYOTO SILK HUB である。養蚕から生糸、織物までを科学で再定義する、十年がかりの構想だ(Forbes JAPAN「細尾が純国産シルクを再興へ ― 京都から新たな世界標準を」2025年12月)。

だが、その全体像は次回以降に譲る。第1話で確かめておきたいのは、もっと手前のことだ。この巨大な構想の駆動力が、一枚の布に「やられた」という、きわめて個人的で身体的な、ただならぬ感覚だったということ。 戦略でも市場分析でもなく、「なんだ、これは!」から始まっているということ。発見の起点は、いつも数字ではなく、宙づりにされた一人の感覚なのだ。

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