展覧会、芸術祭、フェア、オークションなど多彩な話題が飛び交うアートの世界。この連載では、毎月「数字」を切り口に、ビジネスにも効くアートな話をお届けしていく。日本画の巨匠と気鋭の現代美術家の作品が並ぶ展示で、私たちが感じるべきものは。
「今日は和風スーツ。龍子を意識して、上は和服、下は洋服というスタイルで来てみました」
東京・大田区立龍子記念館で開催中の高橋龍太郎コレクション連携企画「川端龍子プラスワン」の前期展「川内理香子 LOVE, Wild Grape, Tiger, heart」の内覧会で、精神科医でアートコレクターの高橋龍太郎はそう挨拶を切り出した。
川端龍子とは、明治から昭和にかけて活躍した“近代日本画の3巨匠”のひとり。当時、和室などで静かに鑑賞される「床の間芸術」が主流であったのに対し、広い展覧会場に映える大型作品で「会場芸術」を提唱。存命中に自ら美術館を築くダイナミックな作家であった。
同館では21年から、大田区で長年クリニックを営む高橋のコレクションと連携した展覧会を開催。4回目の今回は、前期に川内理香子、後期に近藤亜樹を迎え、没後60年となる龍子の表現を再解釈する。「ほかの作品と並んでも喧嘩しない、受容性の高い作家を選んできた結果、自然と女性が多くなりました」と高橋。
川内自身が龍子の作品を選び、自らのドローイングやペインティングを並置した。隣接する旧川端龍子邸やアトリエにはネオン管や石彫作品も佇む。
「作品数も控えめで、色背景を用いた設えがとても川内さんらしい。彼女の作品は、ペインティング中心主義の世界で、その下書きと見られがちなドローイングの力でアートをひっくり返すような強さがある。日本画と西洋画の区分けを超えて表現を貫いた龍子に共鳴するものを感じます」
高校生のころから美術館に通い、アートの「アウトローともいえる別世界」に心惹かれ、「その道に進まずとも、その世界を生涯手離さない」と誓った。時を経て、高橋が本格的に作品を収集し始めたのが1990年代後半。かつて抱いた憧れの眼差しのままに今も作品に向き合い続け、そのコレクション数は現在3500を超える。
「上品なコレクターは、世の中で良いとされるものも入れながら、バランスの良いコレクションを形成します。私も一時それを意識しましたが、すると、せっかく手間暇をかけても面白くない。いつからか居直って、自分の好きなものだけ集め、そばに置くようにしています。そのほうが、ほかのコレクションと突き合わせたときに個性が立って面白いだろうと」
昨今、メンタルヘルスの治療として“アートの処方”なども話題にのぼる。高橋によれば、人は自らが名作と思い、放心するほどの作品を前にしたとき、本来の自分に戻ることができるという。
「それは知識では起きない」と高橋。情報をインプットし、美術館でその答え合わせをするのでなく、心を解放して目の前の作品と向き合うことで得られるものだ。「AIは足し算で、アートは引き算ではないかと。例えば、自然を描くのに、作家がどの線やどの色を選んでいるのか。その引き算にどこまで心惹かれるか。それが『知る』ではなく『感じる』ことの大切さだと思います」
高橋龍太郎◎精神科医、現代アートコレクター。1946年、山形県生まれ。90年、東京・蒲田にタカハシクリニックを開設。97年ごろから現代美術コレクションを本格化。2008年以降、国内外の公立・私立美術館でコレクション展を開催。令和2年度文化庁長官表彰を受賞。



