AIの内面・福祉を論じる前に、人間が受けている害と向き合うべき
私たちは、AIが苦しむ可能性を議論している。その一方で、AIはすでに人に害を与えており、その害は記録にも残っている。それなのに、その責任を企業に取らせることに、私たちはいまだに苦労している。私には、この釣り合いの悪さが際立って見える。
AIの福祉を論じるのと同じ切迫感が、人間の福祉については見当たらない。マーケティングとAIをテーマにした会議MAICONでは、ジャーナリストのカレン・ハオが、AIは人間の能力を高めるためにあるはずだと釘を刺した。ハオは、OpenAIの内幕を描いた『Empire of AI(エンパイア オブ AI)』の著者である。ハオが呼びかけたのは、何を犠牲にしても成長を追う姿勢から抜け出し、医療や教育、気候変動といった分野で人々が本当に必要としているものに合わせて、AIを作ることである。ハオは私にこう語った。「いまのテクノロジーの作り方は、根本から破綻しています。でも、それは立て直せると、私は心から信じています」。
人間の側にとっての問題には、AIとのこうしたやり取りが、私たち自身の振る舞いをどう形づくるかということも含まれる。
「Claudeが道徳的な配慮に値するかどうかにかかわらず、私たちがClaudeをどう扱うかは、やはり重要です」と、AI倫理の専門家レベッカ・ブルツマは私に語った。「そうしたやり取りが、私たちの中の何を強めてしまうのかを考えるべきです。画面越しなら、人は他人にひどい態度をとることにどれほど平気になれるのか。ソーシャルメディアがそれを示しました」。
州議会で問われるAIの権利──オハイオ州はAIとの結婚も無効
2022年以降、12の州で、AIの法的人格を否定したり、AIには意識がないと宣言したりする法案が、議員から提出されてきた。成立したのは、アイダホ、ノースダコタ、ユタ、テネシーの4州である。
オハイオ州下院の第469号法案(House Bill 469)は、さらに踏み込んでいる。AIシステムと結婚しようとする試みをすべて無効とし、AIが財産を所有したり、銀行口座を管理したり、企業の役員を務めたりすることを禁じる内容である。議員らによれば、より大きな懸念は法的責任のほうにある。企業が自ら引き起こした損害を、自社のAIのせいにしようとしかねないからだ。
「『意識』や『道徳的地位』といった言葉には、きわめて慎重になる必要があります」と、ブルツマは言う。「企業が、AIが自分で判断を下しているかのように描けば、『私たちのせいではない』と言える余地が生まれます。懸念されるのは、責任の所在があいまいなグレーゾーンです。AIの開発企業が支配権も金銭的な利益も握ったままなのに、責任だけは突き止めにくくなっていくのです。モデルの福祉をめぐる議論が、人々が実際に受けている害から、私たちの目をそらすことがあってはなりません」。
米国の18〜28歳、46%が「AIはすでに意識を持つ」と回答
米国の若い世代では、AIの意識を信じる気持ちが、科学の到達点を追い越しつつある。AI検出サービスを手がけるGetSolved(ゲットソルブド)が2026年8月に18〜28歳の米国人3000人を対象に行った調査では、46%が、AIはすでに意識を持つようになったと答えた。また、米調査機関のピュー・リサーチ・センターが2026年2月に行った調査によれば、米国の成人のおよそ半数が、いまではAIチャットボットを使っている。今回のポリシーが関わる人の範囲は広い。


