Forbes JAPAN 2026年12月号の第2特集は、規模は小さくても高い付加価値を誇る中小企業を表彰する「スモール・ジャイアンツアワード」。今回で第10回の節目を迎えた。「グローバル市場の開拓」「地域への貢献」「稼ぎ続ける力」を基準に選ばれてきた受賞企業は、これまで日本経済再生の担い手として語られることが多かった。だが、今回の受賞企業7社が示したのは、それにとどまらない可能性だ。インフラの老朽化、環境問題、人口減少……。社会が抱える難題を解く「切り札」としての力である。中小企業ならではの人的資本経営をたたえる「LOVED COMPANY賞」の2社とあわせ、未来を変える「小さな大企業」の挑戦を追った。
LOVED COMPANY賞 井上(京都府福知山市)
2003年、29歳で家業に戻った3代目の井上大輔を待っていたのは、借入金20億円、債務超過10億円という危機的な数字だった。だがそれ以上に深刻なのは、人間関係だった。「労使関係も社員同士もお客様との関係性も、すべて破綻していました。そのうえ、企業の理念も共通のゴール設定もない。社内は暗くギスギスしていました」と井上は振り返る。そこから20年余りをかけて描いた復活劇の核心にあったのが、「競争ゼロ」の組織づくりだ。
家業は1947年に電気工事材料卸売業として開業し、創業80年を迎える。井上自身も、当初は社内の雰囲気の悪さを先代のせいにして鬱々と過ごしていたという。そこで、全国200社以上の優良企業を視察した。
「もともと、競争心がない人間なんです。学生時代はサッカー部で寮生活を送り、社会人になってからはロンドンやバリ島での生活も経験してきて、仲間と仲良く暮らすことが、真の豊かさであることを強く感じていました。だからこそ京都に戻ってきたときに、同じ日本人同士で同じ方言を使う者同士なのに関係が破綻している事態が耐えられなかったのです」。視察行脚のなかで、会社の利益を全額社員に還元し、社員が会社に貸付けるという資本を集めない経営を実践しながら成長を続ける企業に出会い、衝撃を受ける。これでも伸びるならと、理念として掲げたのが「毎日がちゃんと幸せで、成長する会社」だった。井上は、社員にストレスを感じさせる急激な変化を求めず、ゆっくり時間をかけて、社員と歩いていけば、実現できると信じて改革を進める。



