「より賢いロボット」ではなく「学ぶロボット」へ
そしてキャスによれば、この問題の解決策は「より賢いロボット」を作ることではないという。重要なのは、学ぶことができるロボットを作ることだ。
「『この問題への答えは、すべての事柄に責任を持てる、より賢いモデルだ』という声もよく聞くが、これは誤解だ」と同氏は指摘する。「実際に使われている場では、システムが誤って解釈した状況からどれだけ速く学べるか、という点が安全の源泉となる。すなわち、すべての『ニアミス』事例は、単なるインシデント報告にとどまらず、トレーニングおよび検証データとして用いるものとしてマークしておくべきだ」
これは、自動運転車のメーカーが学んできた(そしておそらくは今も学んでいる)のと同じ教訓だ。だが、ヒューマノイドロボットが解決すべき問題は、自動運転車と比べてもはるかに大きくなるはずだ。
「自動運転車業界は、15年の歳月と数十億ドルの資金を費やしてフィードバックループを構築してきたが、ヒューマノイドロボットにも同じ仕組みが必要だ。これは、現実世界での誤動作をトレーニングや検証データにするための、シミュレーションや、センサーからのリアルデータ、規律あるプロセスから構成されるものだ」とキャスは提言する。
「自動運転車の場合に把握が必要な事柄は、周囲の人や物体の位置と移動方向だ。一方、ヒューマノイドロボットの場合は道路網ではなく、何千ものバリエーションがある家庭などの環境で、操作や、周囲にいる人の行動、タスクの遂行でミスが生じた場合に生じる結果を理解しておく必要がある」とキャスは解説する。
その上で、ロボット業界の現在地について、「今指摘したようなデータがどれくらいの量で存在するか、という点では、10年前あたりの自動運転車の位置」だと同氏は語り、「この過程を短縮する近道はない」と釘を刺した。
工場と「家庭」では難易度が根本から異なる
今後1~2年のうちに、家庭にロボットを届けると約束している企業がどれだけたくさんあるかを考えると、この指摘には考えさせられるものがある。
工場や倉庫の場合、ロボットの導入は比較的容易だ。こうした施設は基本的に段差がなく、構造が明確で、整理された場所だ。しかも、そこで業務に就いている人たちも作業中であり、周囲の状況にも注意を払っている。Digit、Atlas、Figure(フィギュア)、Apptronik(アプトロニック)などのロボットにおいて、最初の導入先としてこうした施設が選ばれたのは、それが理由だ。しかし家庭は、根本から異なる環境となる。
「家庭には、ロボットを導入しやすくするこれらの要素がない」とキャスは指摘する。「家庭には子どもやペットがおり、散らかっていて、階段もある。また、予想外の行動をする人が住んでいて、家具やモノの配置も毎日変化する。ロボットは、このようにはるかに不確定要素が高い環境を認識する必要がある。さらに、『動いてはいけない時』を認識することも、同じくらい重要なタスクだ。このように『”何もしない”を安全に遂行する』ことの設計や検証は、一見簡単に思えるかもしれないが、実は非常に難しい。深刻な問題が最初に露呈するのはこの部分だと私は予測している」


