現在、ビジネスの現場や実証実験で使われているヒューマノイドロボット(二足歩行ロボット)の大半は、安全柵の向こう側で働いている。しかし、今後1年半のあいだに、この状況にも変化が訪れそうだ。ただし、人に近い場所で働くロボットの安全性を保つための仕組みが、この進歩に追いついているとは言い切れないのが現状だ。
Agility Robotics(アジリティ・ロボティクス)は2026年9月15日、「Digit 5」を発表した。これは身長180cm、体重129kgのヒューマノイドロボットで、人のすぐそばでも「安全柵なしで」使えるように作られている。メーカー側によると、すでに今後複数年にわたる3億ドル以上の注文を獲得しているという。使用目的は製造・物流・倉庫などだ。
Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)も2026年1月、同社のヒューマノイドロボット「Atlas」の最新型を発表し、世間を驚かせた。同社は量産モデルのAtlasについて、「安全柵不要のガード機能」をサポートしているとうたっている。
さらに別のロボットメーカーである1Xは、柵などがまったく設けられていない一般家庭向けのヒューマノイドロボット「Neo」について、2万件の予約を獲得し、2026年内に出荷するとしている。ただしNeoは、前述のDigit 5やAtlasよりも小型で軽量(168cm、体重30kg)なため、危険性も低いとみられる。サンフランシスコのスタートアップ、Flourish(フローリッシュ)が12月に発売を予定する、さらに小型で車輪で移動する3555ドルのホームロボットについても、同じことが言えるだろう。
しかし、こうした人に近いところで働くロボット向けのルールブックは、まだ書かれてすらいないのが現状だ。ヒューマノイドなどの動的に安定した(セルフバランス型)ロボットを対象とするものとしては初となる、国際的な安全基準「ISO 25785-1」は、現状ではまだ、7段階の4つ目にあたる「委員会原案」の段階だ。
アジリティ・ロボティクスは、この基準の策定に関わっているが、筆者がDigit 5に関する記事で指摘したように、行動を規制する安全基準が整備される前に、ロボットが顧客のもとに届けられる可能性は十分にある。
米国の業界団体、先進オートメーション協会(A3)のジェフ・バーンスタインは7月の時点で、安全基準が設けられるまでは、ヒューマノイドロボットの急速な成長はないとの考えを示していた。さらに同氏は、初期段階で1件でも事故が起きれば、市場全体が凍結状態に陥りかねないと警告している。
この問題は、月ごとに重要度を増している。実際にかなりの量のロボットが生産されつつあるからだ。調査会社カウンターポイントによれば、2026年上半期に出荷されたヒューマノイドロボットの数は約2万2000台に達し、年末までにこの数字は5万台以上になると予測されている。調査会社IDCによる調査では、出荷台数は2万5000台で、さらに急速に成長しているという。
自動運転の歴史から学ぶ、ロボット安全性の課題
安全規制の歴史において、ヒューマノイドロボットよりも少しだけ先を行く業界がある。それは自動運転車だ。AIに関するデータソリューションを提供する企業iMerit(アイメリット)で、自律型モビリティ担当バイスプレジデントを務めるエリック・キャスによると、ロボットの安全については現在、複数の課題が存在するという。同氏は、世界でもトップクラスの自動運転車メーカー8社とともに、データと安全に関する取り組みを進めているが、最近ではロボティクスに関しても、同様の依頼を受けるケースが増えているとのことだ。
筆者はキャスにメールインタビューを実施し、ヒューマノイドロボットに関して、最も困難な安全上の問題は何か尋ねた。
「最も困難なのは、複数の不確実な問題がいっぺんに押し寄せるケースだ。例えば、人間が予想外の動きをし、物体が半分隠れていて、光の加減や配置が変化し、しかもロボットがトレーニングでは一度も見たことがないものに遭遇した、といった場合だ」と、キャスは答えてくれた。
「これらの事柄は、一つずつであれば対処できる。しかし、これらすべてが重なると、(ロボットの)モデルは、信頼度が急落する領域に足を踏み入れることになる。ここで鍵を握るのは、モデル自体がこの点を認識し、フェイルセーフ(安全なかたちで回避)することができるか、という問題だ」
この指摘を踏まえた上で考えると、踊っているさなかに見物人を蹴ったり、子どもに平手打ちを食らわせたロボットはおそらく、危険を認識していないか、自らの能力を過信しているかのどちらかだろう。



