先日、ある企業の商業化戦略の再構築を模索しているチームと「自社がどこで成長できるのか」「強みをどう活かせるのか」「AIの進化が事業にどのような影響をもたらすのか」について1時間ほど話し合った。こうした会話にありがちなことだが、話題は多岐にわたった。あるときは新たな顧客ニーズについて、少し後には会社が構築すべきケイパビリティ(能力、強み)について議論していた。すると、チームメンバーの1人(仮にAさんと呼ぼう)が、深い問いを投げかけた。「私たちのイノベーション活動が成功しているかを測るには、どんな指標を使うべきでしょうか?」
Aさんの質問に対する妥当な答えは山ほどある。増分売上高、利益率、顧客の採用率、市場シェア、あるいは自社の株価そのものかもしれない。これらは、ほとんどの大企業が手元に用意している数値だ。大半の管理職は、自社が前年度にどれだけの売上を上げたかをおおよそ把握している。報酬の一部が株価に連動している場合などは特に、自社の株価水準を把握している者も多い。利益率が改善しているか、前四半期の業績目標を達成したか、経営陣が今期について何を約束したかも知っているだろう。しかし、管理職が見落としがちな指標が1つある。それが企業の株価収益倍率(利益倍率)だ。
多くの企業において、自社がどれほどの株価収益倍率で取引されているかを言える人は比較的少ない。これは問題である。なぜなら、企業の利益倍率はイノベーションの有効性を示す最も明確な成果の1つとなり得るからだ。そして上場企業にとって、それは人々がその企業にどれほどの未来があると考えているかを示す素晴らしいシグナルなのだ。
市場が信じているもの
ビジネススクールなどで財務を専門的に学んでいない人向けに補足すると、株価収益倍率は一般的に「PER(株価収益率)」と呼ばれる。単純に言えば、企業の時価総額を純利益で割ったものと考えればよい。現在、S&P 500株価指数は予想PERの約20倍で取引されている。「予想利益」とは単に、アナリストが今後12カ月間に企業が稼ぐと見込んでいる利益を指す。つまり投資家は、S&P 500構成企業が今後1年間に生み出すと予想される1ドル(約158円)の利益に対して、実質的に約20ドル(約3160円)を支払っていることになる。



