SMALL GIANTS

2026.10.27 12:30

離職率83%や債務超過10億円から大復活した2社に学ぶ人的資本経営と自走組織の作り方

LOVED COMPANY賞を受賞した2社の代表。

小さくても「人に愛される企業」が選ばれる理由

田中駿来 経済産業省 近畿経済産業局 中小企業政策調査課 調査・分析係長

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田中駿来◎2019年4月に経済産業省近畿経済産業局に入局し、25年5月より現職。関西を中心とした中小企業に関する政策の調査や分析業務を担当している。
田中駿来|経済産業省 近畿経済産業局

地域には、規模や知名度は大きくなくても、社員や顧客、取引先、地域から長く愛されている企業がある。皆さんも思い当たる企業があるのではないか。

私たちは、これからの中小企業経営を考えるヒントを得るべく「愛される企業」を調査してきた。それらに共通する特徴の一つに「社員の幸せ」を重視する傾向が見えてきた。一見すると抽象的だが、紐解くと試行錯誤と実践の積み重ねこそが愛される理由を形づくっていることが見えてきた。

社員の幸せを大切にする経営の継続が、社員の信頼を育み、社員一人ひとりが力を発揮できる土壌をつくる。ある人は顧客の困りごとを事業機会に変え、ある人は社内外の人をつなぐ。そうした社員一人ひとりのもつ多様な価値が束となって、企業の「らしさ」を形づくり、顧客からの信頼や地域からの共感となって企業の競争力を支えている。

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こうした人を起点とする企業の成長・成熟の過程は、LOVED COMPANY賞を受賞した企業からもうかがえる。井上とプーラビダは、地域・業種・歴史・組織文化のいずれも異なるが、人への投資を経営の中心に据え、社員をはじめとする多様なステークホルダーとの信頼関係を育みながら、持続的な価値創造を実現してきた点で共通している。

まさに「社員、顧客、地域、社会から愛されながら成長する企業」の姿をそれぞれの形で示している。このような中小企業では、社員の幸せが価値創出の源泉となっている。ここでいう企業の価値は、売り上げや利益、知名度だけで測れるものではない。人口減少による労働供給制約が進む時代において、企業の将来性を考えるうえで「人と組織の価値」の重要性が増している。

「人と組織」の価値を可視化する

しかし、人と組織のもつ価値は数値でとらえることが難しい。求職者は知名度や賃金を、取引先や金融機関は財務状況といった分かりやすい数字を重視する傾向がある。結果として、社員が生き生きと働き、高い付加価値を生み出している企業であっても、その魅力が十分に伝わらず、市場の選択肢にすら上がらないことがある。だからこそ今必要なのは、見えにくい「人と組織」の価値を可視化し、社会に伝えることではないだろうか。

近畿経済産業局では、これまでの調査で得られた中小企業の実践知をベースに「人的資本相関可視化ツール」を開発している。社員へのサーベイ調査を通じて、自社らしさや課題をとらえるため、組織や仕事のあり方、成長実感、幸福度といった人・組織の要素を可視化するものだ。財務情報だけで見えにくい人と組織の状態を定性・定量の両面からとらえ、目指す企業像と照らして現在地を確かめることで、次の人的資本経営を考える機会につなげることを期待している。

「自社らしさ」を、自社の言葉で社員や顧客、地域、社会に伝えていく。その積み重ねは、企業の採用力の強化やステークホルダーとの信頼関係の構築にもつながり、小さくても「人に愛される企業」がより選ばれる社会への変革のきっかけにもなるだろう。

これからの時代、企業が選ばれる理由は規模や売り上げだけでは語り尽くせなくなる。今こそ、経営者にあらためて問いかけたい。

「自社は、なぜ社員に選ばれているのか」

「なぜ顧客に選ばれ、地域に必要とされているのか」

その問いと向き合うことこそが、自社らしい価値を再発見し、持続的な成長につなげる第一歩になるはずだ。


田中駿来◎2019年4月に経済産業省近畿経済産業局に入局し、25年5月より現職。関西を中心とした中小企業に関する政策の調査や分析業務を担当している。

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文=督あかり 写真=大星直輝

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