Forbes JAPAN 2026年12月号の第2特集は、規模は小さくても高い付加価値を誇る中小企業を表彰する「スモール・ジャイアンツアワード」。今回で第10回の節目を迎えた。「グローバル市場の開拓」「地域への貢献」「稼ぎ続ける力」を基準に選ばれてきた受賞企業は、これまで日本経済再生の担い手として語られることが多かった。だが、今回の受賞企業7社が示したのは、それにとどまらない可能性だ。インフラの老朽化、環境問題、人口減少……。社会が抱える難題を解く「切り札」としての力である。中小企業ならではの人的資本経営をたたえる「LOVED COMPANY賞」の2社とあわせ、未来を変える「小さな大企業」の挑戦を追った。
人的資本経営を軸に、持続的な成長を描く企業を「LOVED COMPANY」と呼ぼう。2回目の本賞には、崖っぷちから復活し、成長を続ける2社が選出された。
昨年、スモール・ジャイアンツアワードに部門賞として創設され、今回2回目となる「LOVED COMPANY」賞。今回は、アドバイザリーボードによって39社の推薦があり、各社に人的資本の取り組みやインナーブランディングにまつわるアンケートを実施。P77に掲載した審査員によって「社員への機会の提供」「働きがい」「自律型人材の育成」「心理的安全性」の4つの観点から議論が行われた。
候補企業に実施したアンケートにはどれもびっしりと回答が書き込まれ、定性的になりがちな人的資本の取り組みの成果について定量的なデータが示されていた。
そのなかでも特に、福岡県北九州市で訪問看護ステーションを展開するプーラビダと、京都府福知山市で電設業を営む井上が示した「数値」の説得力は圧倒的だった。
「いい会社」が「強い会社」へ
プーラビダは、人手不足が課題の医療・福祉業界で、離職率83.3%の危機的な職場環境からDXを軸に組織再生を図った。特に「売り上げを生まない1時間」の取り組みに対して、Forbes JAPAN編集長の藤吉雅春は「時間効率ばかりを求めるデジタル社会に対する強いアンチテーゼであり、資格取得や離職率の低下という成果を出している」と評価した。
木村石鹸工業代表取締役社長の木村祥一郎は「DXによる利益追求ではなく、働く人の『余裕』や『余白』を生み出すために着実に取り組み、自主的な成長や利用者に向き合う時間を生み出している」と指摘した。こうした組織力の強化によって、「支援者自身が幸福でありながら、最上のケアを提供するプロフェッショナルチーム」へと進化した。
審査では「思わずマネしたくなる、再現可能性のある仕組みか」といった点も重視され、ユニークでありながらどんな企業でも取り入れやすい実用性を兼ねた取り組みとして高く評価された。
井上(代表、井上大輔)は、負債20億円・債務超過10億円を抱えて倒産寸前の状況から脱するため「毎日がちゃんと幸せで、成長するいい会社を創る」というフィロソフィーを掲げて組織改革を行った(P79)。その結果、社員が自ら考え動く「自走組織」への変革を実現した。
審査員のトイトマ代表取締役社長の山中哲男は、社内SNS上で社員が同僚に感謝したいことを投稿する「みんなのありがとう」の件数に着目。2016~25年度の累計は21万7,957件、25年度だけで3万件超えだった。
山中は「感謝が大切だという価値観をここまで体系だって実践している例はなかなかない。効率化が求められる時代に、人と向き合うことには非効率な面も多いが、そうした取り組みをいくつもかけ合わせることで『いい会社』が『強い会社』になっていく」と語った。
心理的安全性の高い職場環境が、社員の主体性を伸ばし、いちご農園やクラフトビール醸造所などを有する廃校を活用したコミュニティベースなど、地域に密着した新規事業の展開にもつながっている。
2社の共通点は何か。
実は、プーラビダ代表の浦濱広太朗も「毎日がちゃんと幸せ」を掲げる井上と同様な哲学を大切にする。「24時間のうち勤務は8時間。人生の3分の1を占める時間が苦痛なら人生は豊かにならない」というものだ。仕事を通じて、人生がより豊かになる。人を中心に据えた経営哲学こそが、真の成長を促している。



