企業が職場文化をより良いものにしようと試みる、その一風変わった取り組みについて調べていたとき、私はある話に出くわし、すっかり心を奪われた。2021年にキヤノンの中国法人が、ある部屋へ入室する従業員に笑顔を求める「笑顔認識カメラ」を設置したと報じられたのだ。現在もそのシステムが運用されているかは確認できていないが、この出来事は強く印象に残っている。出社した際、ドアでさえも自分が幸せそうな表情をしていることを要求していると知ったら、どう感じるだろうか。
深く考えさせられたのは、「その笑顔が一体何を物語っているのか」という点だ。従業員は出社できて本当に喜んでいるのかもしれない。あるいは、ただドアを開けたいだけかもしれない。笑顔が要件となった瞬間、その裏にあるものは見えにくくなる。
当時、キヤノン中国の広報担当者は、このシステムはポジティブな雰囲気を促進することを目的としていると語った。より幸せな職場を望むこと自体は、もっともな目標だ。しかし、従業員が「幸せ」を演じなければならないとしたら、リーダーは本当に理想的な環境を作れているかをどうやって判断するのだろうか。
奇妙なテクノロジーの話題にとどまらず、この事例が興味深い理由はそこにある。ポジティブなカルチャーとは、人々が自分の仕事に対して前向きな気持ちになれる理由を提供するものであるはずだ。前向きであることが満たすべき「要件」の一つになってしまうと、リーダーは「服従」を「満足」と勘違いするリスクを抱えることになる。
ポジティブさが「業務課題」になるとき
大半の職場には、ドアの前に表情をチェックするカメラなどない。しかし、そうした圧力は会話の中で生じ得る。ある従業員が「この締め切りは非現実的です」と口にする。それに対し上司が「チーム全体で、もっと前向きな姿勢でプロジェクトに臨む必要があるね」と返すようなケースだ。
締め切りは変わっていない。業務量も変わっていない。しかし従業員には今、解決すべき別の問題が生じている。自分が「問題児」だと見られないようにしながら、いかにこの課題について話し合うか、という問題だ。
次のプロジェクトで、その従業員が「金曜日までに終わらせるのは不可能です」と言う代わりに、「厳しいですが、最善を尽くします」と言い換える姿を想像してみてほしい。後者のほうが上司にとっては心地よい返答だ。しかしその分、上司がリスクを正確に把握する機会は失われる。



