薄毛になるのはヒトだけではない
年齢を重ねた男性の頭髪が薄くなるのは、ヒトに限った話ではない。これは、こうした現象には生物学的に深いルーツがあることを裏付ける事実だ。チンパンジーやオランウータンでは、年齢とともに額の毛が薄くなることがある。ベニガオザルでは、毛が薄くなるパターンが非常にヒトの場合に近く、男性型脱毛症の研究に使われたこともあるほどだ(1988年に『Clinics in Dermatology』に掲載されたレビュー論文で詳述されている)。
また、薄毛・脱毛を示すヒトの男性の割合は、民族によって違いがあることがわかっている。一般的に言って、欧州にルーツを持つ人では薄毛になる率が高く、東アジアにルーツを持つ人では低い。こうしたばらつきは、多くの遺伝子、そして民族ごとに異なる来歴によって形作られる形質に認められる特徴だ。
ここまでの話をまとめると、さまざまなエビデンスから、かなり整合性のある図式が導き出される。すなわち、男性型脱毛症は、大人になろうとする時期に成人男性の体の特徴を作り出す、アンドロゲンによる生物学的変化の副産物である可能性が最も高い。この現象が淘汰されずに残っているのは、生涯の後半になって発現し、ほとんど実害がないからだ。薄毛が社会的なメッセージを発しているのか? という問題については、いまだに結論が出ていない。
こうした視点で見れば、後退していく生え際は、体に起きた不具合というよりも、むしろトレードオフと捉えられるだろう。進化においては、全生涯にわたって体が最適化されることはめったにない。
進化の過程では、若い時期にうまく機能するように体が構築される。年齢を重ねた私たちは、のちになって生じる不都合を甘受するしかないのだ。


