「CRISPR」と呼ばれるゲノム編集技術は、この数十年で最も変革する可能性を秘めたイノベーションの一つであり、現代医学の診断と治療の在り方を根本的に刷新する可能性を秘めている。科学者たちはこのツールを用いて、DNAのなかの標的箇所に精密な編集を加え、ゲノムを恒久的に変化させることで、生体の形質や遺伝子発現を改変することができる。
この技術の応用可能性は計り知れない。例えば農作物の場合、特定の形質を増強して収量を増やしたり、病気への抵抗性を授けることができる。対象がヒトの場合も、ゲノム内にある生命の基礎的な構成要素を書き換え、個人の病気の発症リスクを根本から排除することが可能になる。
医療現場における目覚ましいブレイクスルー
CRISPRを用いた本質的なブレイクスルーの一つは、遺伝性の血液疾患「鎌状赤血球症(SCD)」の治療分野で起こった。研究者たちはCRISPR技術を利用し、血液幹細胞に編集を加えて胎児ヘモグロビンの生産量を増加させることで、鎌状赤血球の割合を低下させることに成功した。胎児ヘモグロビンは、異常なヘモグロビンが集まって「鎌状」になるのを防ぐ働きがあるが、生後数カ月で減少するため、SCDの症状が出始める。
SCD患者に遺伝子治療が行われたのは史上初であり、この治療法は2023年に米食品医薬品局(FDA)の承認を受けた。以降もこの分野では、着々と治療法の進歩が続いている。
2025年にも、新たな遺伝子治療が成功を収めている。研究者たちは、「カルバモイルリン酸合成酵素(CPS1)欠損症」というまれな代謝疾患を抱える幼児に、CRISPR療法を適用した。この疾患は、尿素サイクル異常症の1種であり、体内で生じる有害なアンモニアを無害な尿素に適切に変換できず、高アンモニア血症を発症するものだ。
わずか2回の点滴後、患者の健康状態はベースラインと比較して顕著に改善した。医学誌『New England Journal of Medicine』に掲載された論文で、著者らは次のように論じている。「最初の点滴から7週間のうちに、患者の食事のタンパク質摂取量を増やし、窒素スカベンジャー薬(過剰なアンモニアを排出する薬)の投与量を、治療開始時から半減させることができた。この間、患者はウイルス性疾患を発症していたが、許容できないレベルの副作用が生じることはなかった」



