2024年の特許出願は中国が約180万件、米国の約50万件を大きく上回る
1つ目の発言、つまり知的財産の問題はおのずと解決するという見方については、今やデータがヨーに味方している。2024年に中国の出願人が世界中で行った特許出願は約180万件で、米国の出願人による約50万2000件を大きく引き離した。国連の専門機関である世界知的所有権機関(WIPO)が運営する、特許協力条約(PCT。1つの出願で複数の国に特許を求められる国際的な仕組み)に基づく出願でも、2025年は中国が7万3718件(前年比5.3%増)で、米国の5万2617件(同3.0%減)を上回り、再び首位に立った。出願人別では、ファーウェイが9年連続でPCT出願の首位となった。電池や通信機器、AIシステムを海外に売り込む企業を抱える国にとって、技術を模倣されれば失うものは大きい。ただし、注意も要る。出願は、登録されて権利を行使できる特許とは違う。それに、件数の多さは価値の高さを意味しない。
海賊版は下火、それでも続く中国のサイバー侵入による技術取得
しかし、「知的財産の窃取」という言葉は、もともと1つの不満を指していたわけではない。そこには5つの問題がまとめて詰め込まれている。海賊版と偽造品、営業秘密の不正取得、サイバー攻撃による窃取、技術移転の強要、そして自国の有力企業を優遇する産業政策である。USTRが2018年に301条調査の結果として公表した報告書は、これらを1つに結びつけた。第1段階の合意も、そのうちの複数の問題について、1度に中国を縛ろうとした。市場参入の条件として技術移転を強いることの禁止も、その1つである。
ヨーが思い起こした1990年代の問題、つまり海賊版は、すでに下火になった。だが、残りの問題は消えていない。ヨーがニューヨークで語る5週間前の2024年5月、USTRは制裁関税の4年ごとの見直しの報告書で、中国はこうした慣行の多くをなくしておらず、今もサイバー侵入によって外国の技術を手に入れようとしていると結論づけていた。
中国で事業を営む米国企業は、改善したと感じているか
現地で事業を営む企業の見方は、一様ではない。中国米国商会(AmCham China)の2026年の調査では、回答企業の73%が、中国で知的財産が漏れたりデータの安全が脅かされたりするリスクは、ほかの地域と同程度かそれより低いと答えた。中国当局による知的財産権の取り締まりが過去1年で改善したと答えた企業も37%と、前年より5ポイント増えた。それでも、知的財産をめぐる最大の課題として挙がったのは、今も変わらず、裁判で権利を守るのが難しいことと、法律による保護が足りないことだった。こうした結果から見えてくるのは、成熟に向かいつつある市場の姿である。問題が片づいたわけではない。
研究開発を支える知的財産の保護と、輸出規制や投資審査の区別がつきにくくなってきた
テクノロジー業界にとって、知的財産の保護は諸刃の剣である。強力な保護は研究開発の原資を生み、ライセンス供与を可能にし、スタートアップが発明で稼げるようにする。米国では、知的財産への依存度が高い産業が、国内総生産(GDP)の約44%を占めている。しかし、保護も行き過ぎれば代償を伴う。代償は3つある。1つ目は、標準規格の周りに生まれる「特許の藪」(patent thicket)である。1つの技術に多くの特許が重なり合い、使うには数多くの権利者の許諾が要る状態を指す。2つ目は、中小企業を圧迫するライセンス料である。3つ目は、知的財産権の侵害を取り締まることと、国家が戦略上の理由から技術の流れを管理することとの境目が、あいまいになっていることだ。輸出規制や投資審査は、技術を誰に使わせるかを左右する点で、特許政策に似た役割を果たし始めている。
知財紛争なら賠償やライセンスで決着、安全保障問題なら市場からの締め出し
知的財産の問題と安全保障の問題を区別することには、ビジネスの上で意味がある。知的財産をめぐる紛争なら、損害賠償やライセンス契約で決着しうる。企業は、それを費用として見積もることができる。一方、安全保障をめぐる紛争は、エンティティー・リスト(輸出規制の対象となる企業の一覧)への掲載や、市場からの締め出しで終わる。企業がこれを避けるには、サプライチェーンを二重に持ち、製品を、やがては研究開発までも、地域ごとに分けるしかない。


