「ミラノ・コルティナ冬季オリンピックの時のりくりゅうは素晴らしい演技でした。でも、JOC公式SNSで大きな反響を呼んだのは、仮眠していた木原選手を三浦選手が『お寿司食べる人?』と起こしたりするシーン。そんな素顔もすごく素敵だったりする。そういうアスリートの競技とは違う日常をなるべく引き出そうと思って広報チームは頑張っていて、それはすごくいい作戦だなと思っています」。
この「道のり」を伝える取り組みは、大会中だけでなく、その手前のプロセスにまで広げようとしているという。
「アスリートについても、オリンピックなどの手前の段階から、例えば各競技の日本選手権にどういう意味があるのか、これを勝ったらロサンゼルス2028オリンピックの出場権を得るんだとか、そのアスリート、あるいは各競技の代表チームのプロセスをどうお伝えできるのか」。結果が出る前の日々の目標設定と、その積み重ねこそが、道のりへの称賛の本質だという考え方だ。
JOCとしての立場も明確だ。「メダルを獲れなかったからといって、アスリートの価値が下がるわけではないというところは意識しないといけない」。
一方で、目標としてのメダルの意味も否定しない。「私もメダルを獲りたいという思いがあったから、日々のトレーニングで身体の限界を心が超えることができ、成長していけた」。
象徴として挙げたのが浅田真央さんだ。2014年のソチ冬季五輪でショートプログラムでミスが重なり16位発進しながら、フリーでは自己最高点をマーク。結果は6位とメダルには届かなかったが、その演技は日本中に感動を巻き起こした。「メダルは獲れなかったけれども、最後に勇気を持ってフリーであれだけの演技をした。冷静に考えるとメダルは獲ってない。でも、あの演技を誰も残念とは思わないですよね」。それこそがスポーツが示す価値だろう。
勝敗という一点だけでは測れない、積み重ねてきた過程そのものへの価値。それこそが、国際スポーツ大会の意義を勝敗の外側に置き直す視点なのだろう。
一方で、こうした国際大会が「一過性の盛り上がり」で終わってしまうことへの危機感も語られた。「世界陸上、ミラノ・コルティナ冬季大会、WBC、サッカーW杯、バレーボールのアジア選手権、それぞれが盛り上がる。でも、みんなすぐ消えてしまう。こうしたイベントの価値を繋ぎ、TEAM JAPANのレガシーにしていくことが大事」。
国際大会は、単発のイベントではなく、「TEAM JAPAN」という継続的なブランドストーリーの一場面なのだ。
小谷氏自身、3年前からマスターズ世界水泳選手権に参加するようになり、かつてトップアスリートであった頃と最も異なり、競技だけでなく開催地の食や文化も楽しめるようになったという。
「オリンピックのように世界最高峰のアスリートによる戦いを見ることにも醍醐味がありますが、国際大会を日本で行うことで、食事や文化など含めてより日本に興味を持ってくれたり、日本の魅力を知ってくれたりする人が世界に広がる。スポーツの国際大会という目的があるからこそ、ただの観光以上に一つ一つの思い出がより心に響く機会になると感じますね」。大会が、開催地そのものの魅力を海外に発信する機会になっているというわけだ。
こうした価値観を日本により伝えやすくなる点にも自国開催の意義があるという。


