米経済誌『フォーブス』は1982年から、米国で最も裕福な人々を保有資産額に基づいてランク付けした年次長者番付「フォーブス400」を発表している。しかし、フォーブス誌による大富豪たちのデータ収集・分析の歴史は1918年にまでさかのぼる。当時、創刊者B・C・フォーブスは「米国内屈指の銀行家」を対象に調査を行い、米国で最も多くの資産を保有する30人を選出したのだ。
このとき全米トップの大富豪の座に輝いたのは、ロックフェラー財団を設立した「石油王」ジョン・D・ロックフェラーだった。彼が創業した石油会社スタンダード・オイルは、米国初の連邦反トラスト法(独占禁止法)であるシャーマン法に基づき、1911年に規模は小さいながら収益性の高い34社の新会社に分割されていた。
「ロックフェラーの資産額は3、4年前に10億ドルの大台を突破したようだ」とB・C・フォーブスは記している。1918年時点の純資産額は12億ドルに上り、米国人全員に10ドルずつ配って回れるほどの富を有していた。当時の10ドルは、現在の価値に換算するなら240ドル(約3万7680円、1ドル=157円換算)に相当する。
2位のヘンリー・フリックは、コークス・鉄鋼産業でひっそりと巨万の財を成した。3位に入った「鉄鋼王」アンドリュー・カーネギーは「大金持ちのまま死ぬ者は、不名誉な死を遂げる」との信念に基づき、築いた資産のうち約3億ドル(現在の価値で65億ドル超=約1兆円以上)をすでに寄付していたが、それでもなお非常に裕福であり「不名誉な死を遂げる危険性」があるとB・C・フォーブスに指摘された。
1918年当時、一般的な米国人の世帯年収が2000ドルに満たなかった時代に、全米で最も裕福な30人の資産総額は計37億ドル近くに達していた。富裕層への富の集中ぶりは目を見張るものがあり、フォーブスは「米国で流通している貨幣の総額は50億ドルに満たない。もしもこの30人が資産を現金化したら、米国内の全通貨の3分の2以上が吸い上げられてしまうだろう」と書いている。
もっとも、最初のフォーブス長者番付が発表されてから1世紀を経て米国の超富裕層がどれほど裕福になったかを考えると、これらの数字も多くの点で見劣りする。たしかに、経済全体がはるかに巨大で複雑になった現在、米国の億万長者たちが支配する経済の割合は1918年当時のそれほど大きくはない。だが、2026年の「フォーブス400」に掲載された上位30人の資産総額は4兆4000億ドル(約690兆円)に上り、インフレ調整後でも1918年の上位30人の資産総額の50倍も裕福だ。6月には、イーロン・マスクが(一時的に)世界で初めて個人資産が1兆ドル(約160兆円)を超えた「トリリオネア(兆万長者)」となった。マスクの資産額はインフレ調整後のドル換算で、ジョン・ロックフェラーの30倍に相当する。



