「ながら作業」またはマルチタスクとは一度に複数の作業を行うことだが、脳の限られた能力を奪い合うことになるため、注意が散漫になったり頭が混乱したりしてパフォーマンスが落ちるというのが、これまでの常識だった。しかし、ながら作業でかえって身体パフォーマンスが向上する場合があることが実験で確かめられた。
理化学研究所とカリフォルニア工科大学による国際共同研究グループは、特定の課題を組み合わせた「ながら作業」により身体パフォーマンスが向上することを実証した。人の脳は、難しい課題に取り組んだり大きな報酬を得ようとしたりすると、瞳孔が開いて高い覚醒状態になり、脳と体が活動に適した状態に変化することが以前から知られていた。そこで研究グループは、そうした変化を促す活動が、それとあまり干渉しない別の活動の成績を高めるのではないかと考え、実験を行った。

まずは、24人の参加者に、握力計をできるだけ強く12秒間握り続け、その間、画面に表示される動物を見ながら与えられた作業を行うという2つの課題に取り組んでもらった。作業とは、画面に順番に現れる動物をただ見るだけ、今の動物が1つ前の動物と同じならボタンを押す(1-back条件)、今の動物が2つ前の動物と同じならボタンを押す(2-back条件)の3種類。
その結果、ただ見るだけよりも、ボタンを押す作業を行ったほうが、また作業が難しくなるほど、握力計を握る強さを長く維持できるようになった。1-back条件よりも2-back条件のほうが成績がよかったのだ。
次に30人の参加者に同じ実験を行い、同時に課題中の瞳孔の大きさを測定した。すると、課題が難しくなるほど瞳孔が大きくなり、覚醒度の高まりが示された。

さらに17人の参加者を対象に、今度は同じ条件の課題で、正解したときに報酬が与えられるようにして、その報酬の大きさに違いをつけて瞳孔の変化を測定した。すると、報酬が大きくなるほど瞳孔も広がり、握力の成績も上がった。このように、行う作業の組み合わせによっては、身体パフォーマンスを高める「ながら作業」があることが実証された。
この結果を受けて研究グループは、今後は成績を向上させる課題の組み合わせ、さらに覚醒度を高める脳の領域に直接介入する方法を探るということだ。これは、神経損傷後のリハビリや、スポーツなどに応用できるとのこと。みなさんも、パフォーマンスを高める「ながら作業」の課題の組み合わせを、ご自分で探してみてはどうだろうか。



