テクノロジー

2015.12.09 16:20

実証:日本企業がリードする革新的テクノロジー

Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

革新的で競争力を生み出す技術について、メディアでは日本について「不得意」や「かつては」という描き方をすることが多く、業界を知らない人々は大した存在感のない国だと思っているだろう。しかし、そんなことはない、実は世界でリーダー的な力を発揮している存在なのだ。
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3週間の上海滞在から日本に戻ったばかりの日だった。JR渋谷駅から東急セルリアンタワーに向かって歩いていて、かつて東急プラザだった9階建のビルの前を通りかかった時である。日本が革新的技術の世界でリーダーシップを発揮しているものを目の当たりにした。

活気あふれる若者のメッカである渋谷を、東京随一の商業・エンタテイメントハブへと変貌させるべく、今、渋谷駅周辺では大規模再開発が行われている。その一環で、東急プラザをはじめとする大型商業ビルが「取り壊されている」のだ。

なぜ「取り壊されている」をカッコに入れたかというと、日本の建設会社が高層ビルの解体をひっくり返す工法を開発したからである。これまでであれば、クレーンで巨大な鉄球を振り回したり、油圧式ハンマーでたたき壊したりして、必然的に上層階から下へ向かって解体作業を進めたものだ。しかし、ある日本の企業が、1階から1階分ずつ順番に解体していく技術を開発したのだ。つまり、最下層階を解体しては取り除く、という作業を繰り返していく工法である。
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東急プラザを見て私が何に驚いたかというと、たった3週間前に比べて残存する建造物の高さが3、4階分低くなっていたのだ。防音カバーでくるまれたビルは、あたかも自然に縮んでしまったかのようだった。周辺環境も驚くほどクリーンで、普通に前を通り過ぎても、ビルが解体中であることに気付く人はほぼ皆無だろう。この作業を請け負っているのは業界大手の清水建設だ。

日本の建設会社は、建物が密集する都心でのビル解体を、より安全かつ環境にやさしく行うために、こうした高度に発達した技術を開発してきた。各種報道によれば、この技術が海外市場の解体工事や建設契約受注も後押ししているという。

日本が技術開発のリーダーであることが最も顕著なのは自動車業界であり、中でも目を引くのがトヨタ自動車だ。(実は、筆者もトヨタ自動車のADRを個人的に所有している)

他社に先がけて、トヨタが社会的・環境的リーダーシップを発揮、画期的な排ガスゼロの酸水素「燃料電池」車「MIRAI」を開発したことは、ご存知の方も多いだろう。

11月23日の東洋経済オンラインに、先駆的な第4世代ハイブリッド・プリウスの4年越しの開発について長いレポートが掲載されていた。
トヨタ社内で、第4世代プリウス・プロジェクトには、ハードルの高いミッションが3つ課せられたという。


1. 実質的に全く新しいクルマとなるような「フルモデルチェンジ」をすること
2. トヨタ自動車の新プラットフォームである「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ(TNGA)」を使用して設計する初のクルマとすること 
3. 豊田章男社長が掲げる、少々曖昧ながら重要なキャッチフレーズ「もっといいクルマをつくろうよ」を具現すること。

その集大成として開発されたクルマが12月9日に日本で発売される。

新プリウスの燃費は40km/Lで、現行モデルの32.6km/Lよりも20%改善、これは現在の国内トップであるトヨタのアクアとスズキのアルトの37km/Lを上まわる数値である。

この進化を遂げるまでは、膨大な試行錯誤を繰り返す苦難の道だった。何度となく再設計を繰り返し、クルマのボディから電気系統に至るまでの何百というパーツに新しいテクノロジーを適用した。モーターやインバーター等であれば使用エネルギーや損失を抑える取り組み、回生ブレーキ等であれば出力を上げる取り組み等である。その結果、電動操作距離とスピードを大幅に向上させることができた。

新プリウスのプロジェクトチームは、豊田社長のチャッチフレーズ「もっといいクルマつくろうよ」に沿った開発の評価指標を「ライド・アンド・ドライブ(実際の走行性)」の改善とした。また、新しいTNGAプラットフォームと溶接技術の進化により、車高を20ミリ低くしつつ、ねじの強度を60%向上、結果としてボディ剛性の大幅アップも実現した。

トヨタ自動車はプリウスに続き、小型SUVのC-HRも発表している。カローラ、カムリ、RAV4SUVにC-HRを加えて、全世界で販売する車種のフルラインナップが完成する。C-HRは全世界で若い購入者層の支持を狙っており、新興国やヨーロッパ市場でのシェア拡大への貢献も期待されている。

製造は来年日本とトルコでスタート、その後タイ、中国へと拡大して2018年までに30万台生産することが目標だ。

トヨタ自動車の株式は今年、日本の国内株式市場(日本円建)では値動きが不規則で、特にADR(米国預託証券)市場では、継続的な円安の影響もあり、さらに大ききな動きがみられた。11月25日時点の株価は7,600円で3月24日の年初来高値8,783円よりはだいぶ安いが、8月25日につけた年初来安値6,650円からはだいぶ回復している。現在のPBR(株価純資産倍率)は1.41倍でforward PER(将来の予測利益を基に計算した株価収益率)は10.52倍、予想配当利回りは2.61%で一株当たり利益利回りが9.50%となっている。

トヨタ株を長期投資に勧めるかと聞かれたら、答えはイエスだ。自分で現在保有している株式も手放すつもりもない。トヨタほど自信と安心をもって老後資金のポートフォリオに組み込める個別銘柄はあまりない。これは、他の技術領域のリーダー企業についてもいえることだ。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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