アジア

2026.08.24 08:00

北朝鮮が驚異の経済成長、富は金総書記に集中 国民は極度の貧困から抜け出せず

北朝鮮の金正恩総書記。2025年9月4日撮影(VCG/VCG via Getty Images)

北朝鮮の国民が国家の経済運営の失敗を乗り切った方法の1つは、闇市場だった。最大300万人が死亡したとされる1990年代の飢饉(ききん)では、配給制度は大多数の市民に食料や生活必需品を届けることができなかった。国家機能が破綻する中、北朝鮮の国民は自助努力に頼り、「チャンマダン」と呼ばれる闇市場で物々交換を行った。当初は野菜や魚といった基本的な物資のほか、散髪のようなサービスの物々交換から始まった。この「草の根資本主義」あるいは「下からの市場化」は、やがて密輸へと発展し、中国からの商品が国内各地で出回るようになった。金政権は当初、こうした市場を黙認し、課税さえしていた。だが後に、金総書記は、USBメモリーや携帯電話、DVDプレーヤーといった最先端の商品が北朝鮮に流入することで、国内の情報統制やプロパガンダに影響が出ることを懸念するようになった。

advertisement

同総書記は2020年、パンデミックを口実にこうした市場を取り締まり、外国の影響力を抑制するための反市場運動を展開した。国内の市場活動を禁止するため、国民には「海産物が新型コロナウイルスを媒介する」と伝えられた。中国からの密輸を阻止するに当たっては、国境を出入りする者に射殺命令が出され、発砲が行われた。

それ以来、商人は再び国家が管理する店舗での営業へと追い返され、かつてのように利益が政府に直接吸い上げられるようになった。これにより、北朝鮮の一般市民の資金繰りは圧迫され、生き延びるための選択肢も狭められたが、政権側は着々と資本を蓄積していった。

搾取される北朝鮮の労働者

政権のもう1つの富の源泉は、朝鮮労働党「39号室」だ。これは1970年代に設立された政府の秘密組織で、金一族の裏金を管理し、一族と側近のために外貨を調達する役割を担っている。同組織の正確な資産額は不明だが、数十億ドル規模(一部では50億ドル(約8000億円)とも言われている)に上るとみられており、金総書記の個人的な貯金箱として機能している。

advertisement

39号室に勤務していた高位の脱北者への聞き取り調査によると、同組織の収入源は、武器や覚醒剤の販売、ハッキング(2025年には20億ドル[約3200億円]相当の暗号資産を盗み出した)に加え、外国で働く北朝鮮人労働者による稼ぎにも及んでいた。労働者は主に中国やロシアに派遣されているが、世界40カ国で活動しており、その多くは建設、繊維、医療、情報技術、外食産業に従事している。外国に派遣された労働者は脱北を防ぐために北朝鮮の工作員によって常に監視されており、1日16時間の労働を強いられながら、10ドル(約1600円)程度の月給しか受け取っていない。こうした海外への労働者の派遣は、北朝鮮に約5億ドル(約800億円)もの外貨収入をもたらしている。

これにより、金総書記は莫大な富を築いた。衛星画像からは、同総書記が国内各地に所有する豪華な宮殿や邸宅、100台を超える欧州製の高級車、自家用ジェット機、数百万ドル規模の高級船舶の存在が確認されている。

当然のことながら、北朝鮮の奇跡的な経済成長は、1970年代~80年代にかけて韓国で見られたような民主化への動きにつながることはないだろう。実際、米コンサルティング企業コリアン・リスク・グループ(KRG)の北朝鮮専門家アンドレイ・ラニコフ博士によれば、制裁下にあるにもかかわらず、北朝鮮はここ数十年でかつてないほど強固な立場を築いている。だが、同国の経済成長は主に金総書記の権力を強化したに過ぎない。平壌以外に住む国民の大半は、こうした経済成長の恩恵をほとんど受けていない。

(forbes.com 原文)

翻訳・編集=安藤清香

タグ:

連載

Updates:ウクライナ情勢

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事