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2015.09.23 08:00

絆が復活するスイートルーム[妄想浪費 Vol . 2]

大塚家具で構成された「大塚スイート」。父と娘の共通イニシャルをとって「KOスイート」でもいいかもしれない。


「¥240,000,000」

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第2回。
今春、派手な親子喧嘩で世間を騒がせた大手老舗家具店。失墜したブランド力を上げ、親子喧嘩も解決する秘策を考えてみた。


今年度上半期で圧倒的な印象を残した日本企業といえば、大塚家具だろう。

会員制モデルで来客した顧客にマンツーマンで接客し、家具をまとめ売りしてきた創業者の大塚勝久会長。

それに対し、会員制を廃止して誰でも気軽に足を運べる店舗運営を目指す娘の大塚久美子社長。その父と娘が経営主導権をめぐって激しいプロキシファイト(委任状争奪戦)を繰り広げた株主総会は、娘に軍配があがった。

しかしこのお家騒動によるイメージダウンは大きく、その後の売上高に響いたことは否めない。

その低迷から脱却したのが、CMの力だ。久美子社長は7月2日、親子喧嘩に対する一般消費者への謝罪を暗喩した新しいCMを2本公開した。娘が「父がすみません」と大塚家具の店員に謝るバージョンと、店内で揉める娘と父に向かって母親が「喧嘩しない!」と注意する2本である。

これを見てついクスッと笑った人は多かったのではないだろうか。
実際、CM公開に合わせて久美子社長が発表した大規模な経営刷新(①ブランドビジョンの改革 ②新しいロゴの発表 ③家具を買い替える際に中古家具を買い取る「乗り換え特割」を開始)は、市場に好意的に受け止められたようで、株は1,700円台から1,900円台へと急騰したという。いや、よかった、よかった。

ショールームを兼ねたAirbnbの部屋

さて、このままだとお父さんの出番がない。
会社から(ある意味)追われたうえ、娘との悲しい確執も続いている。僕は孤独な大塚勝久さんのことを思った。せっかくならお父さんにもブランド力アップの底力を見せてもらいたい。

そこで思いついたのが、「190カ国超の地元の家で、暮らすように旅をしよう」というキャッチコピーで、部屋を提供するホストと旅行者をマッチングさせるAirbnbである。旅行先でホテルや宿泊施設に泊まるのではなく、現地のアパートで1泊、お城で1週間、ヴィラで1カ月なんてユニークなことができる。日本の若者層の間でも、国内外含めた旅行者に部屋を提供する人が増えているらしい。

まずは勝久さんにマンションを買っていただこう。
その部屋に大塚家具から定価で購入した家具を並べ、Airbnbを利用する旅行者に提供するのだ。それはすなわち大塚家具のショールームでもあるわけで、結果として大塚家具に好印象を持ってもらうよい契機にもなるんじゃないだろうか。

僕は、勝久さんのいちばんの幸せは、娘から愛されることだと思う。その愛情を、企業を通して表現しようとするとまた揉めるから、自主応援団みたいなカタチで大塚家具の最大の顧客となって、外から応援していくことをお勧めしたい。

でも、そういう部屋をつくったことは、久美子社長には当分ナイショにしておく。いつか噂を聞きつけた娘が父のつくった部屋に泊まるとき、ふたりのわだかまりが解けるという寸法だ。いっそのこと、宿泊客を親子限定にして、親子の絆が深まるような演出を考えるのはどうだろうか。

部屋を安く提供すれば宿泊者はうれしいし、大塚家具としては話題必至、お父さんからすれば最終的に娘にも喜んでもらえるし、みんながハッピーになると思うのですが。

日本にひとつだけの「大塚スイート」

いよいよ妄想は膨らんできた。Airbnbではなく、高級ホテルに家具を提供するのもいいかもしれない。

2003年、僕は日本最古の西洋式ホテル「日光金谷ホテル」の顧問に就任し、「N35ルーム」という部屋をプロデュースしたことがある。それまで宣伝費をどのように使っていたか尋ねると、新聞の3段広告を年3回打つのだが、収支はとんとんで、効果はさほどないという。

そこで僕は、1年間の宣伝費用を使って、稼働していない一部屋の最低限の改修をし、雑誌「monthly m」(現在休刊中)でホテル・イン・ホテル、つまり「ホテルのなかに理想のホテルをつくる」という連載を企画した。ベッドはアルフレックス、テレビは日立というように、こちらが企業を逆指名して交渉し、部屋の備品をひとつ提供してもらうわけだ。

その連載自体がホテルの宣伝となり、読者が泊まりたいと思う仕掛けとなる。メーカーは商品を提供したことによってブランド力を上げる。日光金谷ホテルは部屋を提供したことによって雑誌で連載される。雑誌はおもしろいコンテンツが得られて読者の支持を集める。そして読者は比較的安くこの部屋に泊まることができるという、Win-Winの関係が成立し、現在も宿泊客は絶えない。

それに似たカタチで、まずホテルの稼働率の低い部屋を提供していただく。

次にセンスのよい空間デザイナーやインテリアコーディネーターなど勝久さんが個人的に編成したチームが部屋のレイアウトやテーマを決め、大塚家具で購入した家具を提供する。改装費も出す。そのプロジェクトをラジオかテレビのBSあたりが買って、放送していくと楽しいんじゃないかな。朝日放送の番組『大改造!! 劇的ビフォーアフター』のホテル版みたいな感じで。

もちろん雑誌連載でもいいだろう。たとえば雑誌の見開き300万円。改装費用1,200万円。大塚家具の購入費500万円。しめて月額2,000万円、1年で2億4,000万円を浪費すれば、「大塚スイート」が完成する。

勝久さんも、日本中のホテルから名乗りをあげてもらうわけだから、ミシュランの調査員みたいに「私が大塚スイートにふさわしいホテルを決めるんだ!」的なモチベーションで全国を視察して回ると、生き甲斐ができるんじゃないかなと推察する。

そして自らのポケットマネーで、ひとつのホテルのブランド力を上げる。大塚家具のブランド力も上げる。そこにはなんの下心もない。もし、ひとつだけあるとすれば、娘との仲直り。いつの日か娘に感謝され、謝罪され、絆が深まればいうことない。

新CMではこんなセリフがあった。

娘「いいインテリアってなんですか?」

店員「幸せな日常をつくってくれるものでしょうか。そのインテリアに囲まれているとワクワクできる。あとは人にも環境にもやさしいものとか。そんないいインテリアを私たちは一方的に語るのではなく……、はっ!」


語らず、戦わず、気負わず、幸せな日常をカタチづくる空間を提供すること。それが価値ある浪費で生み出せる最大のポイントかもしれない。

イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN No.14 2015年9月号(2015/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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小山薫堂の妄想浪費

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