さかのぼること7年前、電通Bチームの黎明期。僕らのうわさを聞きつけたA先輩が、デスクにふらっとやってきました。「マイナンバーカードについて調査研究したいのだけど、相談してもいい?」。さて、この件、どう料理しようかな。「もちろんです〜」と返事する数秒の間に、出した結論はこうでした。「Bチームの“定例”に来ませんか? 毎回10人以上の違うジャンルのリサーチャーが来るので、そこでみんなに話してはどうでしょう」
改めて説明すると、電通Bチームは本業(A面)以外に、B面=副業、趣味などの個人的な側面をもつ社員が集まる特殊チームです。定例では、毎回10〜15人くらいがランダムに集まり、各自のB面からの最新情報をもち寄ってシェアします。つまり毎回顔合わせが違う多ジャンル情報シェア会(現在改編中)。そこに課題を投げ込めば、多視点で気に解けるのでは? と思ったのです。
さて、その月の定例に、予告通りA先輩が現れました。まずは15分ほど、先輩からのオリエンタイム。マイナンバーとは? マイナンバーカードとは? 続いて、調査研究の悩みについて聞きました。
そして課題解決タイムへ。まずは手始めに、僕の隣にいた、小説家として活動する後輩Xに振ってみました。「マイナンバーカード、小説家的にはどうかな?」。Xが話し始めるには……。「マイナンバー的な番号制度は、SFの世界ではけっこう出てきます。日本でも50年くらい前の小説に出てきていて、登場人物はマイナンバー的制度のせいで失敗しています。映画でも結構出てきますし、そういうSF作品における成功例・失敗例をまとめたらどうでしょう?」
面白い。超メモるA先輩。次に、エクストリームスポーツ担当の後藤に振ってみました。彼は特に山に強いので「山的にはどうなの?」と。「山的にはですね……」と数秒考えたのち、こんな答えが。
「去年、兵庫県では山での遭難が108件ありましたが、そのうち登山届を出していたのが3件だけ。御嶽山の噴火直後だったのになぜか? それは、ハガキで出さなければいけないから。なので、登山口や山小屋にリーダーを設置して、マイナンバーカードで認証すれば届出完了! ってどうですかね?」
これまた面白い。ものの5分で、2案、すごくいいアイデアが出てきました。こんな感じで、自分のリサーチテーマ順に1人1案ずつ発表していくと、あっという間に違う切り口の、かなりのレベルのアイデアが、あれよあれよと出てきました。A先輩は「助かった〜」と大満足でしたが、その場にいたBチームメンバーも僕も大満足でした。
「このやり方は、面白い」。その日からこれを「10ジャンル同時ブレスト」と呼び始めました。その後、いろんな企業からの相談が来た場合には、「何担当とブレストしたいですか?」と指名制にし、実際にその後コンビニに並んだ商品も、この多ジャンルブレストから生まれたりし、Bチームの1、2を争う定番メソッドへと成長しました。
ブレストを会社でやると、量が出たとて、結構同じ切り口だったり、案が似ていたりなんてことがある。外部の有識者をブレストに呼んでも、その時間でひとつの方向からしか掘れない。それに対し、10ジャンル同時ブレストは、多視点で一気にアイデアを量産できます。セレンディピティの応酬。早くたくさん、意外なアイデアが出る。そして、自分とみんなが得意なことが生きるから楽しい。「好きこそ物の上手なれ×文殊の知恵」が実現するのです。
この写真の日に集まった担当は、 プロダクトデザイン、インスタ、健 康、教育、ファッション他。
いまはこのBチームの担当図を見 せながら、依頼主と何担当とブレ ストしたいかをヒアリング。