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2016.09.26 10:00

シンギュラリティ大学が教える「飛躍型企業」の発想とは

MaximP / shutterstock

ウォールマートやマイクロソフトをはじめとしたグローバル企業の幹部など世界から経営者候補が集う場でイノベーションプロデューサーが感じたこととは。

2016年5月、シンギュラリティ大学エグゼクティブプログラムに参加して印象に残ったのは、「エクスポネンシャル(飛躍的・指数関数的に成長する)」時代における経営者の視点転換の必要性だ。IoT(モノのインターネット)によりすべてがネットワークでつながり、AI(人工知能)、ロボティクス、バイオなど技術進化を統合するという未来の変化を捉え、新たな”複雑系型思考”を持つということだ。

特に象徴的だったのは、「オープンイノベーション」についての考え方だ。日本では現在、大企業におけるイノベーションの手段として注目を集めている。しかし、シンギュラリティ大学での教えは発想が”真逆”だった。同大学で飛躍型企業と提唱する、テスラモーターズやウーバー、エアビーアンドビーなどの企業では、自社の資産をできる限り減らし徹底的に外部資産を活用するという発想をする。日本の大企業のように「一部を公開し、外部と組んだことによって自分たちのメリットを得る」という視座ではない。

こうした飛躍型企業の発想は、囲い込みの「20世紀型モデル」と、大きなプラットフォームをつくり、エコシステム全体を成長させることで自社が繁栄する「21世紀型モデル」の根本的な違いがよく表れている。より社会に大きなインパクトをもたらす価値創造をするため、自社だけが価値創出できることに全てを集中する。それが”予測不可能なネットワーク経済”の法則だと理解しているのだ。

飛躍型企業の経営において10の大事な経営資源があるという。経営資源について「外部」「内部」を並列に置いていること自体、新しい発想である。特に注目すべきは次の5つの外部経営資源だ。

1. オンデマンド型の人材の確保(私たちは外の”従業員”の集団が作れるか)、2. コミュニティの設立(どのようにビジョンに共感するコミュニティを作るか)、3. アルゴリズムの構築(取得するデータを価値化する仕組み)、4. 外部資産の活用(資産を増やさず事業を行う)、5. エンゲージメント(顧客との長期的な関係を評価基準にする)である。オープンイノベーションの施策群で外部資産の活用は大前提だが、より効果的にすべく必須になるのがMTP(Massive Transformative Purpose)。組織の大志とも呼べる「野心的な変革目標」だ。社会課題の解決といった自社の利益を超える壮大なMTPを設定し、組織外の人が協働したくなる魅力的な自社のコア・リソースを提示することが、優秀な外部コミュニティ、外部資産活用の上で重要になる。世界中のあらゆるリソースにアクセスしやすくなる、エクスポネンシャルな時代だからこそ、魅力的なミッションの定義と、コア・リソースを磨き上げることに照準を定めるー。これからの経営陣は、より大きい視座で世の中に問うことが重要になってくるだろう。

佐宗邦威◎biotope代表取締役。P&G、ヒューマンバリュー、ソニーを経て独立し、イノベーションプロデュースを行う。著書に『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』。exponential.jp取締役。

佐宗邦威 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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