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2024.02.20 11:30

「オールナイトニッポン」と「ラジオ深夜便」が初コラボ ラジオ×真夜中の潜在市場

(左から)オールナイトニッポンパーソナリティ鈴木杏樹氏、「ラジオ深夜便」後藤繁榮アンカーと村上里和アンカー。都内・ニッポン放送で

2024年1月末、今世紀初の一大プロジェクトが真夜中に行われていたことをご存じだろうか。そのプロジェクトとは、長らく深夜ラジオをけん引してきた2つの番組、ニッポン放送「オールナイトニッポン」とNHK「ラジオ深夜便」の夢の競演! 2日間にわたって行われた真夜中のコラボ放送の現場を覗かせてもらった。

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「オールナイトニッポンMUSIC10」DJと「ラジオ深夜便」アンカーが双方向ゲスト出演!


今回のプロジェクトは、今年ニッポン放送が開局70周年を迎えるとともに、来年NHKがラジオ開局100年を迎えるのを前に、両局が協力して深夜ラジオの魅力を発信するとともに、能登半島地震で避難生活を余儀なくされている方、眠れぬ夜を過ごしている方を少しでも元気づけることができれば……という目的で計画されたものだ。

両局のコラボ放送は、夜10時にスタート。まず、「オールナイトニッポンMUSIC10(以下、MUSIC10)」に「ラジオ深夜便」アンカーがゲスト出演。その後、11時台は両局のスタジオをつないで同時生放送、午前0時台は「ラジオ深夜便」の放送に「MUSIC10」パーソナリティがゲスト出演するという3部構成になっている。

ニッポン放送の「オールナイトニッポン」が、個性的なタレントパーソナリティーによる自由なトークと最新の音楽で、若者たちから絶大な人気を集めてきた深夜放送の草分け的存在なのに対し、NHKの「ラジオ深夜便」は、1年365日、毎日6時間にわたってアンカー(NHKの現役アナウンサー、OB、OGのアナウンサー)が進行を担当し、懐かしい歌や心にしみるインタビューを放送。「眠たくなったらお眠りください」を公言し、シニア層から熱い支持を受けてきた番組だ。色合いの異なる2つの番組は、混ざり合うことができるのか……。

コラボ放送2日目となる夜9時。有楽町にあるニッポン放送を訪ねたのは、「ラジオ深夜便」を担当して10年になる、後藤繁榮アンカーと村上里和アンカーの2人。黄色と白を基調とした明るくポップな印象のフロアに到着すると、「MUSIC10」火曜パーソナリティの鈴木杏樹さんが、優しい笑顔で2人を迎えた。

「深夜ラジオ」という潜在市場は大きい?


「MUSIC10」は、【あなたの夜に、音楽を。】をテーマに、リスナーからの音楽リクエストに“フルコーラス”でこたえる2時間の音楽番組。フォーク、ポップス、ハードロック、クラシック、ジャズ、歌謡曲から小唄まで、かける音楽はノンジャンル。番組タイトル通り、毎日10曲はフルコーラスでかけるというのがこだわりなのだそう。

構成作家の神部氏は以下のように話す。

「長く音楽番組を担当していると、この曲はかけ尽くされてるしなあ…などと、ついバイアスをかけてしまいがち。でも、その曲を知らないリスナーが1人でもいればその人にとっては新曲ということ。だから、先入観なし、ニュートラルにリクエストにこたえるようにしています。若いリスナーさんから、学校ではこんな音楽が流行ってますと教えられることもありますよ」

番組開始当初は、50~60代のリスナーが中心だったそうだが、昭和ブーム、コロナ禍でのおうち時間の増加に伴い、10~30代のリスナーも増え、幅広い層からリクエストが寄せられるようになったという。深夜帯の番組にも関わらず、生放送中に400通近いメールが寄せられることもあるらしい。驚くべき数の多さだ。

「オールナイトニッポン」統括プロデューサーの冨山氏によれば、ネット配信の普及、SNSとの相性の良さも相まって深夜ラジオの聴取率は右肩上がり。番組イベントへの集客も好調で、人気パーソナリティのオードリーによる番組イベントは、回を重ねるごとに会場が大きくなり、放送15周年となる今年はなんと東京ドームで行うという。

「15年前に比べると、番組スポンサーも10倍に増えています。実は、今が一番ラジオが聴かれているんじゃないでしょうか」

どうやら深夜ラジオには、大きな潜在市場がありそうだ。

都内・ニッポン放送で

都内・ニッポン放送で

パーソナリティ鈴木杏樹氏に聞いた


「MUSIC10」のパーソナリティを務めて9年になる鈴木さんに、これまでの放送で印象に残っている企画について聞いてみた。

「以前、電話リクエスト企画をやったんですが、あれは結構画期的でした! まさか、自分がラジオのこちら側にいて、リスナーさんと直接電話でおしゃべりする日がくるなんて! とても楽しかったし新鮮でした。それに、絶対無理だと思いつつお名前をあげた浜田雅功さんがゲストに来てくださった回も印象に残っています。浜田さんは当日までいらしていただけるか心配でしたけど(笑)」

リスナーとの密なやりとりはもちろん、思いがけないゲストとのコラボレーションが実現するというのも、深夜ラジオならではだろう。

鈴木さんは、小学生の頃から深夜ラジオに親しんできたという。

「深夜ラジオって、秘密のお話を盗み聞きしてるみたいな、そういうちょっとワクワクするところがあるなっていつも思っています。しゃべっている側も夜だから話せちゃう、ラジオだから言っちゃうっていう…、そういうところがあるじゃないですか。それが聴けるっていう楽しさは多いにあると思う。聴いてる側としてお得感があります。

昔は、親に早く寝なさい! と言われながらも、内緒でイヤホンをして一生懸命放送を聴いてワクワクしていました。良くないことをしているっていう、ちょっと冒険心をかきたてられる時間でしたけれど、今は1日をリセットしてくれるいい空間といい時間になっています。どんなにせわしない一日を過ごしたとしても、ラジオをかけるといつものパーソナリティがいつもの番組を放送している。それを聴いているだけで、自然に頭も体もリセットされますから」

普段から60分タイマーにして深夜ラジオを聴きながら寝落ちするというのが、夜の定番の過ごし方。

「気持ちよく寝落ちしたいときは『ラジオ深夜便』。ちょっと元気で夜更かししてもOKってときは『オールナイトニッポン』にしています」

根っからの深夜ラジオファンなのだ。

そんな深夜ラジオのパーソナリティを務めるにあたり、鈴木さんにはいつも心がけていることがあるのだそう。

「マイクの向こう側には1人のリスナーがいると思って、1対1という意識でおしゃべりしています。それと、これから寝ようという人が聞いてくださる時間帯なので、なんかほっこりというか、ちょっと笑顔になってから明日に向かって寝てほしい。そんなイメージでお届けできたらいいな、心が笑顔になるといいなと思ってやっています」

それは、深夜ラジオを愛するリスナーの1人でもある鈴木さんだからこそ、大切に思うことなのかもしれない。

「深夜便」後藤アンカーの就職活動先、実はニッポン放送だった?


夜10時、スペシャルコラボ放送がスタート。ダジャレが代名詞の「ラジオ深夜便」後藤アンカーをもてなすように、「MUSIC10」のリスナーさんからも続々ダジャレ作品が寄せられ、和やかな雰囲気で番組は進んでいく。

「いつもは番組を仕切る側だけれど、鈴木杏樹さんの優しい笑顔に身をゆだねる幸福感はたとえようもない。生きてきてよかった」

と、感慨深げだった後藤アンカー。なんと、大学4年時の就職活動で、ニッポン放送に申込書(エントリーシート)をもらいに来たけれど、受付で「一昨日締め切りましたよ」と言われ、すごすごと帰った思い出があるのだそう。

「あれから半世紀たって、憧れだった「オールナイトニッポン」に出演できるなんて、感動!赤い糸で結ばれていたんだなぁ」と、ちょっと頬を赤らめて語っていた。

そんな後藤アンカーには、「ラジオ深夜便」を担当する前に、番組の存在意義を考えさせられる出来事があったという。

「番組を担当する前でしたが、『月刊ラジオ深夜便』に掲載された80代一人暮らしの男性のお便りに心ひかれました。その人は『深夜便のつどい』(※アンカーが各地に出向いて行うトークイベント)の抽選にあたり、開催日までカレンダーの日にちを毎日消しながら楽しみにしていたそうです。

いよいよ当日、駅から会場へ向かう同年輩の人々を見て『リスナーだ!』とうれしくなり、満員の会場で着席し『この人たちと毎晩いっしょにラジオを聴いているんだ』と思うと安心感に包まれ眠ってしまったといいます。肩をたたかれ目を覚ますと係りの人が『みなさん、帰られましたよ』と。

催しは何一つ見られなかったけれど、充実感に満たされた一日だったというお便りでした。このお便りを読んで『すごい番組だな』と思い、いずれは是非担当したいと願っていました」

民放ラジオは「華やか」(深夜便村上アンカー)

一方の村上アンカーは、初めてのコラボ放送にどんな感想を持ったのだろうか。

「民放のラジオは、華やかだなと思いました。スタジオの明るい色調や、人気俳優さんやタレントさんがMCで語りかけてくれるワクワク感、NHKとは違う音楽のポップな(?)使い方や、スタッフの方の遊び心──。皆さんのキラキラ感がNHKのラジオにもちりばめられた気がしました。振り返って、このキラキラ感の中で、自分の存在意義ってなんだろう?と改めて考えさせられました」

そう語る村上アンカーが企画を立ち上げ担当しているのが、毎月第4木曜日に放送している「みんなの子育て☆深夜便」。年齢や性別、立場を越えて、みんなで一緒に子育てについて考え応援していこうというコーナーで、今年で7年目を迎える。

村上アンカーは、こう語る。

「時にお叱りを受けたりほめられたり。リスナーはとても近い存在で、私はそうした皆さんに育てられ支えられてきました。中でも『みんなの子育て☆深夜便』は、リスナーの皆さんの声がなければ生まれることはなかったし、ここまで続けられなかったと思います」

実は、「深夜に子育てがつらいなんて話は聞きたくない」「『ラジオ深夜便』には合わないから別の時間にやるべきだ」といった声が届いたこともあったという。だが回を重ねるうちに、「子育ての孤独を受け止めてくれる場所がこんな深夜にあった」「子育ての話なんて……と敬遠していたが、人生について話しているんだと気がついた」など、子育て世代からはもちろん、幅広い世代から応援・共感の声が寄せられるようになった。深夜便リスナーが次々とつながり、その輪が広がっていくのを感じるようになったのだそう。

村上アンカーはこうも話してくれた。

「深夜ラジオは、人と人をつなげ、言葉をつなぐ場所なのではと思います。アンカーとしての私の役目は、“つなぐ人”であることかなと思っています」

NHKとニッポン放送、「違和感なし」の同時生放送

夜11時前、「ありゴトウございました」というダジャレの挨拶で、コラボ放送第一部は無事に終了。その後、NHKのスタジオをつないでの11時台同時生放送、0時台のコラボ放送を終えた鈴木杏樹さんに改めて感想を伺った。

「NHKとニッポン放送がいろんなことを越えて同時に生放送ができるんだ!ってことにすごく驚いたし、カラーの違う番組同士が違和感なくコラボできたっていうのは、素晴らしいことだと思いました。今回、初めてそれぞれの番組を知ったという方もいらっしゃるかもしれない。スイッチしながらこっち聴いたりあっち聴いたりしてもらえたらステキですよね。すごくいいきっかけになるんじゃないかと思いました」

取材の最後に、構成作家の神部氏が、こんなことを話してくれた。

「今はタイムフリーや聴き逃しでいつでも放送が聞けるけれど、この夜の時間帯だからこそラジオを必要としている人がいるんじゃないかと思っています。介護をしながら、仕事をしながら聞いている人も多い。それがこの時間の特徴です。番組に届くメールを見ていると、本音というか、自分の人生について書いてくれる人が多いです。

先日も、常連リスナーの方が、初めて打ち明けるけど自分はパニック障害なんですと書いてこられた。そうしたら、他のリスナーの方からも、実は僕も、ってメールが来て……。この夜の時間って、つい打ち明けたくなってしまうんでしょうね。

これはニッポン放送で『上柳昌彦 あさぼらけ』を担当する上柳昌彦アナが言っている言葉でもありますが、皆さんに伝えたいのは、ラジオにはあなたの居場所が絶対ありますよってことです。ニッポン放送でもNHKでも、どこかに必ずある。だからあちこち聴いて、あなたの居場所を見つけてください」

今回、ニッポン放送「オールナイトニッポン」とNHK「ラジオ深夜便」の競演という一大プロジェクトを覗かせてもらったわけだが、さすが深夜の長寿番組というべきか。違いを自然に溶け込ませる懐の深さや、それを面白がれる余裕は双方に共通していたように思う。

自由度が高いといわれるラジオだが、深夜ラジオは底が知れない。不思議な夜の時間のそんな「底の底」で、ラジオの向こうにいる“耳友”と、あなたも一緒に過ごしてみてはいかがだろうか。 

池田ちひろ(構成・文)◎フリーディレクター、ライター。広告出版会社勤務を経て、2003年ディレクターに転身。TV番組の制作に携わったのち、現在はNHKラジオで「ごごカフェ」「ラジオ深夜便」「ラジオ保健室」「あやかしラヂオ」などの制作を担当している。ラジオ特集「孤高のキャメラマン木村大作 映画人生を語る」で、第54回(2016年度)ギャラクシー賞奨励賞を受賞。

〈番組関連書籍〉
■ニッポン放送「上柳昌彦 あさぼらけ」初の番組関連書籍
居場所は“心(ここ)”にある』(上柳昌彦と仲間たち著、2023年、扶桑社刊)

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文=池田ちひろ 編集=石井節子

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