ネコ科の動物はすべて捕食者だ。他の動物を捕えて殺し、食料とする。そして、ネコ科の一部の種は、他よりも強力な捕食者だ。
ネコ科のなかで、最強の「頂点」捕食者として君臨するのがトラだ。ネコ科の現生種のなかで最大であり、動物界に敵は存在しない――ヒト以外には。
当然ながら、近代銃器が発明されるまで、ヒトはトラに対してまったくの無力だった。1900年代初頭まで、世界のトラの個体数は健全な状態だった。
しかし、銃や現代的農業、工業化が、トラの運命を暗転させた(20世紀初頭には世界で10万頭以上いたが、2010年には3200頭以下まで激減。現在は保全活動の成果により、2022年の推計では約4500頭とされている)。
以下では、現在知られている9亜種のトラが直面する苦難について紹介していこう。すでに絶滅した3つの系統についても詳述する。
1. バリトラ(絶滅)
インドネシアのバリ島にのみ分布したバリトラは、トラの9亜種のなかで最小サイズだった。野生下での最後の確実な観察例は1930年代のもので、それからまもなく絶滅が宣言された。
分布域の狭さに、島の人口増加が重なり、バリトラは森林破壊、獲物の減少、狩猟によって数を減らした。悲劇的なことに、バリトラは一度として飼育下に置かれたことがなかった。そのため、最後の野生個体が姿を消した瞬間、この亜種は永遠に失われた。
2. カスピトラ(絶滅)
カスピトラは、かつて中央アジアに広く分布した大型の亜種であり、現在のトルコ、イラン、中国西部の河畔域や森林に生息した。堂々たる体格と高い適応能力を備えていたが、カスピトラは大規模な狩猟、生息地の断片化、20世紀なかばのソ連の農業プロジェクトの犠牲になった。正式に絶滅が宣言されたのは1970年代だ。
最近の遺伝学研究により、カスピトラとアムールトラは、DNAの類似性が極めて高かったことが判明した。これを受け、遺伝的にごく近い亜種であるアムールトラを代理とした、再野生化をめぐる議論が活発化している。
3. ジャワトラ(絶滅)
ジャワトラは、人口稠密なインドネシアのジャワ島に分布したが、森林伐採、農地拡大、密猟が原因で1980年代に絶滅に追いやられた。その後も散発的に未確認の目撃情報はあったものの、数十年にわたり生存の決定的証拠は得られておらず、大多数の保全関係者は絶滅亜種とみなしている。
4. アムールトラ(絶滅危惧)

シベリアトラとも呼ばれるアムールトラは、世界最大のネコ科動物であり、主な分布域はロシア極東部だが、中国東北部にも少数が生息する。かつて絶滅寸前に陥ったものの、集中的な保全努力と密猟の取り締まりによって、現在の個体数は推定500~600頭まで回復した。しかし、生息地は依然として、違法伐採やインフラ開発、気候変動の絶え間ない脅威にさらされており、アムールトラの将来は安泰とは程遠い。