米トランプ政権は、SNSのアカウントを非公開にする外国人留学生を「要注意人物」とみなしている。一方で、企業は採用プロセスにおいて人工知能(AI)を使い、偽の応募者を見抜こうとしている。その結果、これまで通用してきたSNSのルールが時代遅れになりつつある。
就職やインターンを目指す大学生に対する従来のアドバイスは次のようなものだった。「LinkedInでは職業的なプロフィールを充実させておくべきだ。その一方で、SNSに投稿した政治的意見や、飲み会で撮影した羽目を外した場面の写真は削除するか非公開にしておくべきだ」。
トランプ政権がビザ申請者に求める「オンライン上の透明性」
しかし、最近の米国での動きは、このルールを時代遅れにしかねない。中でも衝撃的なのが、トランプ政権が米国領事館職員に対して、学生ビザや文化交流ビザの申請者のSNSを公開設定にさせて、「オンライン上の活動全体」を審査するよう命じたことだ。
米国務省は、この措置の導入の目的が、米国政府や米国文化に対する「敵意」、テロや反ユダヤ的見解の支持とみなされる兆候を探すことにあると明言している。アカウントを公開しない申請者は、却下される可能性がある。また、SNS上での活動がまったく見られない場合も、本心を隠そうとしているとみなされ、不利に働く恐れがある。
「SNSに投稿しても不利だし、投稿しなくても不利だ」と、フォーブスの取材に応じたある留学生は、ため息まじりに話す。この留学生は、移民としての身分に悪影響が及ぶのを恐れ、匿名を条件に語った。
政府の新方針を受け、留学生の中には、自分の寄稿記事を学生新聞から削除してもらったり、インスタグラム上で親パレスチナや反トランプ的な投稿に付けた、「いいね」の履歴を1つずつ手作業で取り消すといった行動に出る者もいる(この作業は手動でしかできず、多くのクリックを要する)。こうしておけば、アカウントは依然として公開状態のままだが、政治色は排除される。
米国人学生にも忍び寄る「二重の束縛」
ビザの申請者が最も影響を受けるのは明らかだが、米国人の学生もまた、ある種の板挟みに直面している。SNS上の発言は、就職活動の際に不利に働くことがある。しかし、オンライン上の存在感を消したり隠したりすることもまた、意外な形で裏目に出る可能性がある。企業が応募者が実在の人物であることや、企業文化に合致する人材であることを見極めるために、AIによるSNSのスクリーニングを始めているからだ。
「この状況は、二重の束縛を生み出している。学生は雇用主に良い印象を与えるためにプロフィールを編集するよう言われる一方で、SNS上の存在感をコントロールしようとする行為そのものが、不審な動きと受け取られかねない」と、ネバダ大学リノ校のグローバルメディア准教授パロミタ・ペインは語る。
これは、以前は見られなかった動きだ。2019年に発表された研究によれば、アカウントを非公開にしても就職活動に悪影響はなく、むしろ有利になる可能性すらあったという。「採用担当者はかつて、厳格なプライバシー管理を行っている応募者をやや好意的に見ていた。そのような行動は、『機密情報を適切に管理できる人材であることの証だ』と捉えられていた節がある」と、この研究を行ったユタ州立大学の経営学准教授のクリス・ハートウェルは説明する。
ここで明確にしておくと、米国の企業は、ビザ申請者に対する国務省の対応のように、応募者に非公開アカウントを公開させたり、削除されたアカウントの存在を理由に応募者を不利に扱ったりすると明言してはいない。実際、カリフォルニア州やメリーランド州、ニューヨーク州などの複数の州には、雇用主が非公開のSNSアカウントへのアクセスを要求することを明確に禁止する法律がある。