モビリティ

2024.05.09 11:30

テスラ、不要だと主張した自動運転用「LiDAR」を密かに大量購入

安井克至
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Apu Gomes/Getty Images

イーロン・マスクがテスラを自動運転で走行する「ロボタクシー」企業に変貌させる野心を抱く中、彼は「自動運転車両に必要なセンサーはカメラだけだ」と主張し、Waymo(ウェイモ)や他の企業が使用するこの分野の標準装備である「LiDAR」センサーの使用を断固として避けている。しかし、それにも関わらずテスラは、このハイテク3D画像処理装置を大量に購入していた模様だ。

マスクは、LiDARを人間の盲腸といった役に立たない臓器になぞらえ、このセンサーを使用する企業は「破滅する」とさえ述べている。しかし、LiDARを開発する米企業Luminar(ルミナー)は5月7日の決算発表で、テスラがこのプロダクトを購入したことが同社の第1四半期の収益の重要な原動力になったことを明らかにした。

フロリダ州オーランドに本社を置くルミナーの第1四半期の売上高は前年同期比45%増の2100万ドル(約32億6000万円)で、ガイダンスに沿ったものだった。同社は、自動車メーカー以外の顧客へのLiDARの売上は減少したが、「この減少はテスラへのセンサー売上によって相殺された」と述べている。ルミナーによると、テスラは同社の第1四半期における最大のLiDAR顧客であり、「四半期の売上高の10%以上を占めた」という。これは、テスラが今年これまでに数百台のLiDARを購入したことを示唆している。

ルミナーのこの発表は、テスラのエンジニアが自動運転車両を開発するための努力の一環としてLiDARを使用していることを示す初の公式発表といえる。テスラはこの件に関するコメント要請に応じなかった。

ほんの数週間前、テスラが期待外れの第1四半期決算を発表した際、マスクは「自動運転車両にLiDARやレーダーは必要ない」という以前からの主張を繰り返していただけに、ルミナーによるこの発表は興味深い。

マスクは、4月23日の決算説明会で「エンド・ツー・エンドのニューラルネットワークによるビジョンベースのアプローチが、スケーラブルな自律走行に適したソリューションであることがはっきりした」と述べていた。「それは、人間がどのように運転するかということだ。私たちの道路網全体は、生物学的ニューラルネットと目のために設計されている。だから当然、カメラとデジタルニューラルネットが現在の道路システムに対する解決策となる」

テスラの競合はすべてLiDARを採用

アルファベットのウェイモやゼネラルモーターズが支援するCruise(クルーズ)、アマゾンのZoox(ズークス)といったロボタクシーの完成を目指す他の企業はすべて、複数のカメラやレーダーに加えてLiDARを採用し、昼でも夜でも、雨や霧の中でも、車両が周囲の道路状況や、歩行者を確実に確認できるようにしている。これは、カメラでは必ずしもできないことだ。

米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)で自動運転のアドバイザーを務めたジョージ・メイソン大学のミッシー・カミングス教授は、最近のフォーブスの取材に「コンピュータビジョンだけでどのような環境でもダイナミックに走行することは不可能です。そのような車では人が死にます」と述べていた。

ルミナーは、テスラに加えてボルボやメルセデス・ベンツを含む自動車メーカーにセンサーを供給している。同社の株価は7日のナスダック市場で1.2%下落し1.65ドルをつけたが、決算発表後の時間外取引で3%上昇した。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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