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2024.05.10 13:30

ビジネス思考で勝ち取った!「このミス」大賞作家の意外な正体

Forbes JAPAN編集部
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山田尚史|作家、マネックスグループ取締役兼執行役、PKSHA Technology共同創業者

本格的に小説を書き始めて、たった2年半で大賞を手に。異色の新人はどのように受賞までの戦略を描いたのか。


「意味がわからない」「なんで?」

2023年10月2日、山田尚史のもとに起業家の仲間たちから困惑交じりの祝福メッセージが多数寄せられた。この日、山田は多くの人気作家を輩出してきた、宝島社主催の第22回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞。AIベンチャー、PKSHA Technologyの創業者のひとりで、現在はマネックスグループの取締役兼執行役を務める彼が、異分野で名誉ある賞を勝ち取ったことは、驚きをもって迎えられた。何よりも起業家仲間が仰天したのは、経営者の知見や経験を生かした作品かと思いきや、古代エジプトを舞台にした本格ミステリーだったことだ。それも、執筆活動を始めてからたった2年半で。

幼少期から読書が大好きで小説家への憧れを抱いていたという山田が本格的に筆をとり始めたのは20年末のこと。東京大学の先輩にあたる上野山勝也とふたりで創業したPKSHA Technologyが17年に上場を果たしたのち、燃え尽きていた時期があったと振り返る。

「上場を通じて創業メンバーに報いることができましたし、会社をさらに成長させる契機にもなりましたが、その先に会社を大きくし続けることは可能であっても、僕にとっての自己実現ではないと感じるようになりました。『もし今、事故に遭って死んだらものすごく後悔するな』と」。取締役の任期満了を迎えるタイミングで続投を辞退。「人生を通じて、作家であり続ける」という目標に向き合い始め、ミステリー小説の新人賞に焦点を定めた。

山田は、ビジネス的な発想で戦略を立てていった。受賞までの道のりを考えたとき、書き手として実力をつけることは当然必要だが、結果が出るまでに多くの時間を要する。そこで、今までにないテーマを描くことが歓迎され、自身の作風ともマッチしていた『このミス』大賞に狙いを絞った。

「講評」でPDCAを加速

トリックにこだわった「館もの」ミステリーで応募した第21回の『このミス』大賞は、一次選考を通らなかった。だが、これも想定内。「小説の新人賞で選考委員から講評をもらうには、おおよそ二次審査までは通過する必要があるんです。でも、『このミス』大賞は一次落ちでも機会があって、400人くらいが応募したら、40人はもらえる」。プロトタイプをつくっても、顧客からフィードバックがもらえないのであれば改善しようがない。山田は、講評の仕組みをうまく使ってPDCAのサイクルを加速させたわけだ。
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文=堤 美佳子 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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