北米

2024.05.07 08:00

老朽化する米国の原子力発電所 稼働延長より新規建設の規制見直しを

安井克至
1992

米カリフォルニア州のディアブロキャニオン原子力発電所。2023年6月26日撮影(Brian van der Brug / Los Angeles Times via Getty Images)

米カリフォルニア州のディアブロキャニオン原子力発電所には、波乱に満ちた歴史がある。同発電所の建設を巡り10年以上にわたる抗議運動や法廷闘争が繰り広げられた末、2基の原子炉がそれぞれ1985年と87年に稼働を開始した。その後、同発電所はカリフォルニア州の電力の約9%を安定的に供給してきたが、2基の原子炉はそれぞれ2024年と25年に廃炉となる予定だった。ところが22年、カリフォルニア州議会は同発電所の操業を30年まで延長する法案を可決。規制当局もこれを承認した。

ディアブロキャニオン発電所の廃炉の先送りは、ここ数十年にわたって苦戦を強いられてきた米国の原子力業界にとって、まれに見る明るい話題となった。全米各地で稼働する原子炉は平均で約40年前に稼働を開始しており、急速に老朽化が進んでいる。近年では経済的な圧力により、複数の原子力発電所が当初の予定を繰り上げて閉鎖されており、今後もさらに多くの発電所が稼働を停止する計画だ。

ディアブロキャニオン発電所の操業延長は、電力の安定的な供給や二酸化炭素排出の低減という観点からは理にかなっている。他方で、同発電所がたどってきた道のりは、業界が直面している深刻な課題を浮き彫りにしている。これは米国の原子力業界が、現在発展している革新的な分野というより、むしろ高齢者が支配する時代遅れの分野になりつつある現状を示している。

米国では、原子力発電所の新規建設は極めて困難で、多額の費用がかかる。これは、規制当局の放射線リスクに対する姿勢が、業界を八方ふさがりにしているせいだ。規制当局は、ほんのわずかな線量でも放射線被ばくがあれば発がんリスクが高まるとする考えに依存している。これにより、被ばく限度や安全要件が極度に厳しくなっているのだ。ところが、低線量の放射線は一般に考えられているより害が少ないどころか、細胞の修復機構を刺激することで健康に役立つ可能性さえあるという証拠が次々と出されている。だが、規制当局の間には、客観的なリスク評価より、非科学的な予防措置に基づく時代遅れの考え方が根強く残っている。

こうしたリスク回避が前提となっていることで、原子力発電所の新規建設には法外な費用がかかるのだ。これこそ、米国ではここ数十年間に稼働開始した原子炉がわずか2基しかない理由だ。原子炉の新規建設が阻まれる中、既存の原子炉は老朽化する一方だ。こうした背景から、ディアブロキャニオン発電所は稼働開始から40年近く経って、寿命が延長されることになったのだ。
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翻訳・編集=安藤清香

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