アジア

2024.04.28 09:00

中国が不調でもアジアは成長、経済の力学に変化

木村拓哉

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アジア開発銀行(ADB)の分析と予測では、中国経済の低迷にもかかわらずアジア経済は好調であり、それが意味するところは中国の重要性の低下だ。ADBはこうした図を描こうとしていたわけではないだろうが、不注意か意図的かは別として、これが実態であり、中国の野心に沿うものではないことは間違いない。

フィリピン・マニラに本部を置くADBのエコノミストたちは、報告書で明確には指摘していないものの、この経済力の変化に触れざるを得なかった。予測される中国の減速とは裏腹に、アナリストらはアジア経済全体の見通しは概ね明るいと見込んでいる。

同行の見通しによると、中国を含むアジア46カ国の今年の実質成長率は平均4.9%で、来年はわずかに今年を上回る。中国の実質経済成長率が昨年の5.2%から今年は4.8%に、来年には4.5%に減速すると予想しながらも、アジア全体では今後加速すると見込んでいる。ADBの見立てでは中国の代わりにインドなどが経済成長を牽引する。同国の今年の実質経済成長率は7%、来年は7.2%と予想している。

数字よりもっと重要なのはその根拠だ。中国に関しては、不動産危機と消費マインドの低迷が経済の足を引っ張ると分析している。もちろん、これらの問題は2年以上前から中国経済に影を落としており、互いに密接に関連している。2021年に始まった不動産開発企業の破綻は、依然として重要な部門である住宅の建設・購入を抑制している。不動産の価値も押し下げ、これにより家計資産は目減りし、消費マインドは悪化。その結果、人々の消費意欲は冷え込んでいる。中国政府のゼロコロナ政策によるロックダウン(都市封鎖)の影響で、安定収入を得られるのかどうか、人々が以前より不安になっていることも消費マインドと消費を一層落ち込ませている。

中国の景気を支えるものが乏しいことが鮮明であるのとは対照的に、アジアの他の地域では消費マインドが改善しており、内需が中国を除くアジアの成長の確実な原動力となっているとADBは指摘している。

ADBはまた、台湾と韓国で生産される半導体に対する旺盛な需要と、インドと東南アジアに注がれている堅調な投資にも注目している。半導体と投資に関しては中国は問題に直面している。というのも、米国や欧州連合(EU)、日本が中国との貿易をますます避けるようになっており、日欧米の企業はサプライチェーンを中国からベトナム、インドネシア、フィリピン、その他のアジアの国に移そうとしているからだ。この図は、中国を犠牲にしてその他のアジアの国々が成長しているということを示している。

インフレパターンでも違いは鮮明だ。中国は消費者物価と生産者物価の両方でデフレに悩まされている。アジア全般では、ADBは今年の消費者物価のインフレ率は3.2%、来年は3%と比較的安定したものになると予想している。これらのインフレ率は、特に食料品やその他の重要品目において、好ましいインフレ率を上回っている。そのため、ADBはアジアの中央銀行や米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めが続いているにもかかわらず、成長すると見込んでいる。

だが、インフレの問題は中国のデフレに比べるとはるかに小さなものだ。インフレは、それがどのようなマイナス面をもたらすにせよ、将来の値上がりを回避しようと人々や企業が消費することで、すぐさま成長につながる。だがデフレでは、将来物価が下がることを期待して人々が消費を先延ばしにするため、当面の成長は期待できない。

ほんの数年前まで、中国が経済問題を抱えればアジア、特に発展途上の国々が成長することは不可能だと考えられていた。ADBは今、明示的ではないにせよ、アジアの経済に大きな変化が起きており、中国の地位が低下すると示唆している。アジアだけでなく世界の経済を支配しようという中国の明確な野心に照らせば、中国に一抹の不安を抱かせるものであるはずだ。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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