キャリア

2024.05.12 13:00

「大航海時代」を経てマイクロソフトCMOへ。目の前の「一本」に集中することが道を開く

Forbes JAPAN編集部
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沼本 健|マイクロソフト 最高マーケティング責任者

東京大学→通産省→マイクロソフト。経歴からは、絵に描いたような“エリート”に見えるかもしれない。だが、「日々の積み重ね」だけが道を切り開く──。一見華やかなキャリアの裏にあるブレない哲学とは。


サティア・ナデラが3代目CEOに就任して10年。クラウド事業の拡充やAI(人工知能)領域への注力など先見性ある経営ビジョンが奏功し、マイクロソフトは時価総額首位に返り咲いた。そのナデラがCMO(最高マーケティング責任者)に抜擢したのが、沼本健だ。そのキャリアは順風満帆に見えるが、道のりは華やかさからはほど遠いものだったという。先行きを見通すのが難しい今、沼本が考える、グローバルに活躍するために必要な力とは。

今年1月、マイクロソフトの時価総額が3兆ドルを突破した。3兆ドル突破はアップルに続いて2社目であり、3月1日時点でアップルを引き離して堂々の世界首位である。
2024年2月でマイクロソフトCEO 就任から10年を迎えたサティア・ ナデラ。

2024年2月でマイクロソフトCEO 就任から10年を迎えたサティア・ ナデラ。原点回帰を掲げて3代目CEOに就任し、「共感」をキーワードに企業文化を刷新。スティーブ・バルマー前CEOが種をまいたクラウド事業を育てつつ、人工知能(AI)の分野でも「ChatGPT」の開発元OpenAIに出資するなど、時代を先取りした経営戦略を展開。1月には時価総額が3兆ドルを突破するなど、生成AI開発競争をリードしている。

世界で最も価値が高い企業となったマイクロソフトには、サティア・ナデラCEOをはじめとした7人の「CXO」がいる。まさに世界を動かす7人だが、そのひとりに日本人がいる。エグゼクティブバイスプレジデント兼CMO(チーフマーケティングオフィサー)の沼本健だ。

実は沼本は前年10月にCMOに就任したばかり。それまでコマーシャルチームCMOとして法人ビジネスのマーケティングを担当していたが、コンシューマー製品も含めて全体のマーケティングを見る立場になった。

最高幹部のひとりになって見える風景はどのように変わったのか。マイクロソフトが世界11カ国で展開するイベント「Microsoft AI Tour」のために来日した沼本にそう尋ねると、こう答えた。「見るべき製品分野が広くなっただけかというと、そんなことはない。コンシューマーマーケティングにはコマーシャルと違う部分があります。日々新しい仕事に慣れながら、『これは少し違うな』『なるほど、こういうこともあるのか』と勉強しています」

具体的に何を新しく学んでいるのか。これまでとの違いを聞くと、沼本は笑って首を振る。「コマーシャルとコンシューマーで違いはありますが、そこにフォーカスするのは本質的ではありません。『これはコマーシャルの製品ですか。それともコンシューマーの製品ですか』という見方ではなく、私たちはすべてのみなさんにCopilot(マイクロソフトの生成AIアプリ)を使っていただきたい。Copilotの底上げをすることで、コンシューマーだろうとコマーシャルだろうとビジネスのすそ野が広がります」

一例が、今年のダボス会議開催に合わせて発表されたCopilot Proのローンチだ。もともとCopilotには、誰でも使える無料版と、法人向けのCopilot for Microsoft 365があった。しかし、Copilot for Microsoft 365の契約は300席以上という条件があり、高機能のCopilotを席数に関係なく使いたいユーザーのニーズを満たすには至らなかった。そこでローンチされたのが、一席から契約できる Copilot Proだった。
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文=村上 敬 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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