ヘルスケア

2024.03.30 14:00

ブタからヒトへの腎臓移植を実現した米スタートアップ、心臓と肝臓に挑戦

安井克至
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カーティスの説明によると、遺伝子にこれほど多くの改変を加えることは、ゲノムの他の部分に意図せずに変異が生じるリスクを高める。これはオフターゲット変異として知られている。だがここ数年のゲノム解読の進歩により、オフターゲット変異が起こったかどうかを検出することができるようになった。今回のブタの場合、そのようなオフターゲット変異はごくわずかで、結果に影響を及ぼすことはないとeGenesisは判断した。

同社は英科学誌ネイチャーに昨秋掲載された論文で、ブタの腎臓が移植されたサルが1年以上、ある例では2年以上生存したことを明らかにした。カーティスによると、こうしたデータと腎臓移植の成功を踏まえ、eGenesisは早ければ2025年にも、ブタの腎臓をヒトに移植する本格的な臨床試験の実施をFDAに正式に申請する方向で取り組んでいるという。だが、まだそこには至っていない。FDAは申請を承認する前に、霊長類でのデータをもっと見たいと考えているとカーティスは説明した。より多くのデータが必要ではあるが、これまでに実証されたことは、同社が正しい方向に進んでいることを示す「良い指標」だとアジはみている。

移植例を増やすのに必要なことの1つは、クローン胚や胚移植を用いるのではなく、すぐに提供できる臓器を持つブタを繁殖させることだとカーティスはいう。この手法について、eGenesisの共同創業者でハーバード大学医学部の遺伝学研究者であるジョージ・チャーチはフォーブスの取材に対し、1頭のブタから複数の臓器を患者に提供する機会をもたらすことにもなると語った。

カーティスによると、同社の取り組みで実現に近づいているのは、ヒトへの移植を目的に行うブタの肝臓や心臓への遺伝子改変だ。これは腎臓と同様のプロセスを用いる。同社は1月に、遺伝子を改変したブタの肝臓を脳死者の体につなぐ手術に成功したと発表した。この手術によって、肝不全の患者が数日間、つまり人間の臓器の移植を受けるまで生き延びることができるようになる可能性がある。

手術がうまく行ったことから、同社は遺伝子を改変した肝臓についてFDAに申請し、今年末までに臨床試験を開始する計画だという。最終的には、生きている患者への一時しのぎではない完全移植を目指している。
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翻訳=溝口慈子

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