事業継承

2024.02.26 18:30

事業承継から見る日本経済の未来 入山章栄教授が解説

Forbes JAPAN編集部
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3. 強力な「中小企業連合体」の登場

中小企業がグループ化していく好事例が由紀ホールディングスでしょう。優れた要素技術をもった製造業を集めたことで、新素材の開発に成功。攻めの経営が成長につながっています。

こうした同業者・同業態の水平統合型M&Aやサプライチェーンを維持するために独自技術をもつ企業を買収する垂直統合型M&Aは、これまでもありました。一方で、「地域活性化」というテーマで保育園から介護施設までライフステージをつなげたり、スポーツ施設や経営難の旅館を支援する異業種連合には、時代の要請なのか買収元の意識に変化が窺えます。

いずれも地方豪族といわれる地域の大手が中心となって底上げを図るものですが、変わったところでは110年に及ぶ石炭事業から撤退した九州の三井松島ホールディングスがあります。さまざまな領域の先端的なニッチ企業を次々と買収する企業体に変化しています。

こうした中小企業の再編が効果を現すのが人材です。

4. これからどんな会社が潰れるか

事業承継によって企業を刷新できないと、会社が潰れる事態になります。なぜなら人が集まらないからです。

中小企業の最大の悩みは人手不足です。高賃金化が叫ばれるなかで、粗利の多くを人件費にまわして労働分配率が上がっていくと、中小企業はもたなくなる。それに、大企業と比べると賃金ギャップがあるため、優秀な人材は中小企業には集まりにくい。

しかし、事業承継によって古い会社からここに紹介したような魅力的な会社に変身すると、海外からでも優秀な人材は集まるようになります。古い思考の会社には誰も来たがりません。

上場企業のように株主からプレッシャーをかけられることもない企業は、事業承継に対して長期視点や計画性が後回しになりがちです。だからこそ、地銀を始めとした外部機関の役割と意識は大きく変化していかなければならないと思います。イノベーションは承継の準備段階から始まっているのです。


いりやま・あきえ◎早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号を取得。19年より現職。著書に『世界標準の経営理論』など。

文=フォーブスジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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