経営・戦略

2024.01.18 08:30

ニセコにルイ・ヴィトン。グローバル資本と日本の「さまざまな現実」

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英国文学を専門とされた中野さんを相手に気の引ける引用ですが、英国の18世紀の文学者であるサミュエル・ジョンソンには次のような言葉があります。

「イタリアに行ったことのない人は、見るべきものを見ていないとの劣等感にいつも悩まされることになる」

貴族の子弟が学業を終えて旅をするグランドツアーが盛んだった時代、パリとイタリアが人気の旅行先でした。歴史的な文化遺産に触れることで研鑽を積むという名目があったわけですが、実際にはお酒やギャンブルに溺れる若者たちも少なくなかったようです。

19世紀になると英国人の旅先に変化が見られます。前世紀と同じくイタリアは主要な滞在地のひとつです。しかし、若い女性も含め、歴史を感じる都市ではなく地中海沿岸のリビエラでゆったりとした時間を過ごすといったスタイルが流行します。文化的刺激を求めることから自然を満喫することに旅の目的が徐々に移行していくのは、旅モデルとして定番といえるのでしょう。

日本でのインバウンドの焦点が文化から自然に拡大してきたのも、当然の成り行きでしょう。ぼく自身も、インバウンドが盛んになる前、つまり10数年以上前からこのタイプの変化の必然性を感じていました。

その頃ですから日本文化に関心の高い人たちが多かったのですが、イタリア人の知り合いたちの滞在先が、東京、京都に広島に加えて沖縄があり、沖縄の滞在日数が増えていったのです。「文化施設の見学だけじゃあ飽きるし、かといってビーチでゴロゴロするのにタイやインドネシアを追加するのも億劫」と話していました。
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ところで、中野さんには現在のインバウンド現象で気になる2つの点があると理解しました。

一つは旺盛なインバウンド需要が「地域資源の食い逃げ」のようにローカル経済に貢献しない海外資本の投資形態が顕在化していること。2つ目は地元の経済に貢献しないだけでなく、はじめから日本人が顧客として視野に入っていない寂しさとかモヤモヤ感がある、ということでしょうか。

仮にこの把握がまんざら外れていないとして、1つ目からコメントしていきましょう。
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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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