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2023.10.18 17:30

4人の有識者が考察。ビッグ・フラット・ナウ時代の地域活性のあり方と勝ち筋

Forbes JAPAN編集部
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イラストレーション=アンドリュー・ジョイス

これからの地域活性のあり方はどう変化していくのか。メディア美学者、実践者、人と組織の専門家、編集者の4人の有識者が考察する。

インターネット黎明期からデジタル社会環境を研究してきたメディア美学者の武邑光裕、熱海再生を目的とした民間まちづくり会社machimoriの代表を務める市来広一郎、ブルネロ・クチネリ創業者の経営哲学『人間主義的経営』の日本語訳を手がけた岩崎春夫、そしてビジネス&カルチャーブック『tattva』編集長の花井優太。一見つながりがないように見える4人が集まり、意見を交わすテーマとしたのが「これからの地域活性のあり方」だ。

花井優太(以下、花井この座談会は、武邑先生が高い関心をもつ「The Big Flat Now(ビッグ・フラット・ナウ)」は、岩崎さんが翻訳されたブルネロ・クチネリ著『人間主義的経営』の概念、そして市来さんが熱海で実践されてきた地域活性のあり方と地続きにつながっているのではないかという問いが出発点となっています。

武邑光裕(以下、武邑ビッグ・フラット・ナウとは、例えば「カンブリア爆発」から「昨日検索したレストラン」、「今日のニュース」まで、ブラウザ上にさまざまな出来事がタブとして一列に並ぶ状況が象徴するように、時間や場所という制約を超えて何もかもが平坦化し、歴史も未来も現在化しているという考え方です。さらには現実も編集可能になったいま、私たちはまさにどこまでもフラットでナウな時代を生きているといえます。

花井:フラットネスでナウネスなこの状況と、デジタルノマドや関係人口拡大に見るコロナ以降の地域活性は重ねて考えることができるのではないでしょうか。関係人口をターゲットに、熱海再生に大きな貢献を果たした実践者として、市来さんをお呼びしました。

市来広一郎(以下、市来)熱海再生を目的としたまちづくりの会社「machimori」代表の市来です。熱海は定住者が少ないため、外からやってきた創造性の高い人たちが、熱海を舞台に新しい挑戦をすることで街の再生を後押ししてくれました。歴史的にも、谷崎潤一郎や志賀直哉が熱海に別荘を建て、島崎藤村や芥川龍之介が熱海を舞台とした小説を執筆したように、外からやってきたクリエイティブな人たちがつくり上げてきたという文脈があります。
たけむら・みつひろ◎メディア美学者、「武邑塾」塾長。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。著書に『プライバシー・パラドックスデータ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)など多数。

たけむら・みつひろ◎メディア美学者、「武邑塾」塾長。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。著書に『プライバシー・パラドックスデータ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)など多数。

リスボンから学ぶ「寛容性」の生み方

花井:社会学者のリチャード・フロリダは、イノベーション創出のためには、クリエイティブ人材にとっての魅力的な都市づくりが必要であり、それには街の多様性と寛容性を高めな

しかし、人と情報の流動性が高まるなかで、定住性を生み出すには「これからの時代、文脈はどのように紡がれていくのか」「人や土地は何を蓄積できるのか」ということについても考えなければいけません。定住性に影響する人間主義的地域活性について、国内外の事例をご存じである岩崎さんをお呼びしました。

岩崎春夫(以下、岩崎)私が邦訳した『人間主義的経営』は、世界最高水準のカシミアをイタリアのソロメオ村から届け続けるラグジュアリー・ファッションブランド「ブルネロクチネリ」の創業者の経営哲学をまとめた書です。クチネリは、ソロメオ村の自然に魅了され、より豊かな暮らしのために村を修復し、劇場、図書館、公園などの施設を整備しました。人間の尊厳と自然を守り、地域繁栄のために利益を投資し続ける人間主義的資本主義の思想のもと事業を成功させた偉大な経営者です。私の会社は、ブルネロ・クチネリのような理論と実践の両面から強く美しい経営を実践する会社が増えてほしいと願って活動を続けています。
はない・ゆうた ◎編集者。エディトリアルをバックボーンに、世の中の文脈を鑑みた、または先見性をもった戦略、クリエイティブに従事。季刊誌『tattva』編集長。共著書に『カルチュラル・コンピテンシー』がある。

はない・ゆうた◎編集者。エディトリアルをバックボーンに、世の中の文脈を鑑みた、または先見性をもった戦略、クリエイティブに従事。季刊誌『tattva』編集長。共著書に『カルチュラル・コンピテンシー』がある。

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文=肥高茉実 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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