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2023.08.16 08:30

経営者、起業家、識者に聞く。人生100年時代の「人とお金の新しい関係」

Forbes JAPAN編集部
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イラストレーション=トミー・パーカー

この20年、世界ではテクノロジーの急速な普及により労働市場が大きく変わり、日本では社会構造が激変した。これからの個人とお金の関係はどう変わっていくのか。第一線で活躍する経営者、起業家、識者に聞く。


資産運用も人生もグローバルな視点をもて

柴山和久|ウェルスナビ 代表取締役CEO

私のキャリアに最も影響を与えた「お金」にまつわる出来事は、日米の金融格差に気づいたことだ。2013年、ニューヨークのウォール街で働いていたマッキンゼー時代、シカゴ郊外に住む米国人の義理の両親の資産運用を相談された。サラリーマン家庭で、暮らしぶりも質素だった彼らの資産が数億円あるのに驚いた。金融知識はほぼゼロにもかかわらず、プライベートバンクとたまたま近所に引っ越してきたというRIA(独立系のフィナンシャルアドバイザー)に若いころから資産運用を任せて長期積立分散の投資をしてきた結果、富裕層の仲間入りをしていた。

その時頭に浮かんだのは、同じような学歴、職歴をもつ自身の日本の両親のことだ。両親はバブル崩壊後、一切株取引をしておらず、基本的に資産はほぼ預金、あとは保険に入り、退職金で住宅ローンを完済し、年金も受け取ることができていた。

日本では恵まれているほうだが資産は数千万円で、その差は10倍以上。もしも両親が若いころから義両親と同じようなサービスを受けていたらはるかに豊かであったはずだし、そのサービスが日本の津々浦々に広がっていれば、現在2000兆円といわれる個人金融資産があと1000兆円多くてもおかしくない。金融知識や投資経験のあるなしにかかわらず、社会インフラとしての金融サービスをつくりたい。そう思ったのが、私がウェルスナビを起業したきっかけだ。

今年で創業8年、ロボアドバイザーのサービスを正式にリリースして7年になるが、現在預かり資産は8000億円、36万人に利用いただいている。両親の時代では当たり前だった終身雇用制度が終焉を迎え、少子高齢化が進み、社会の構造変化により「働く世代」の資産運用が大切な時代になった。事業の成長の背景には、その事実が「広く認識されてきた」ということが大きいと思う。

24年から始まる新NISA制度にも注目している。生涯の非課税枠が1800万円、年間の非課税枠が360万円という金額に目が行きがちだが、個人的により重視しているのは、制度が恒久化されることにより、いつでも始めることができ、使いきれなかった枠は翌年復活するので、誰でも自分のペースで資産運用ができるという点。インフレによって預金の目減りが心配な高齢世代も、教育にお金が必要でいまは少ししか投資に回せないという子育て世代にも、すべての人にとって利用しやすい制度になる。

私はキャリアを通してお金のことを考えて続けてきたが、次世代や子どもたちに伝えたいことはまず、視野を世界全体に、広くもってほしいということだ。例えば、デフレは日本で起きているが、世界では起きていない。日本は20年経済成長をしていないので資産は預金がメインだが、海外に目を向ければ、新興国も先進国も成長している。

また我々はいま、日本の働く世代が資産運用をしなければならないがその仕組みがなかった、という課題解決に向けて動いているわけだが、社会インフラとしてのサービスをつくれば、それは当たり前になる。

次世代はそこを出発点に次の課題を解決してほしい。未知の課題に対応するための力を兼ね備えてほしい。誰かに対して価値があること、サービスやものを提供した場合に得られる対価がお金。そうした課題解決をきちんとやっていくと、お金は後からついてくるものだろうと思っている。


しばやま・かずひさ◎ウェルスナビ代表取締役CEO。2000年より日英の財務省に勤務後、INSEADでMBA取得。10年よりマッキンゼーで日米の金融プロジェクトに従事。15年に起業し、20年に東証マザーズ(現グロース)に上場。
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文=フォーブス ジャパン編集部、堤美佳子、三ツ井香菜

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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