開催翌日の9日に2020年の大統領選で民主党有力候補とされるエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)がアマゾン、グーグル、フェイスブックなどテックジャイアントはイノベーションを阻害しているとして解体を主張すると、10日にはフェイスブックの初期投資家でマーク・ザッカーバーグのメンターであったベンチャー・キャピタリストのロジャー・マクナミーが基調講演に立ち、ウォーレンの考えを支持して独占問題に警鐘を鳴らし、全米で大きく報じられた。
他にも、イノベーションの煽りを受けてミドルクラスが消えゆく米国社会での「仕事」の新たな意味付けを丹念に描いた『The Job : Work and Its Future in a Time of Radical Change』の著者、エレン・ラッペル・シェルが高い注目を集めるなど、今年はこれまでのテクノロジー一辺倒からの潮目が変わり、イノベーションが引き起こす人間と社会への様々な影響を踏まえて、今後どう共存していくべきかという議論が盛んであった印象を受ける。
中でも筆者が最も注目したのは、作家でジャーナリストのマルコム・グラッドウェルが初めてエグゼクティブ・プロデューサーを務めた、自動運転をテーマにした映画「Autonomy」である。
映画「Autonomy」courtesy by SXSW
映画のプレミア公開に先立ち、9日に自動運転技術のパイオニアでありエンジニアのクリス・アームソン(Aurora Innovation CEO)とグラッドウェルのトークセッションが行われたが、正直に言って、サイバーセキュリティ、シリコンバレーのテック企業の開発への貪欲さ、事故責任の所在、米国での交通渋滞の問題など、論点が多岐にわたり、そしてあまりにも問題が大きすぎて、上手く整理できない印象を受けた。恐らくこれが自動運転にまつわる議論の現状なのであろう。
しかしその1時間後にプレミア上映された、80分のアレックス・ホロウィッツ監督、雑誌「Car and Driver」プロデュースによるドキュメンタリー映画を見て、ようやくグラッドウェルの重大な問いかけが腑に落ち、我々が今、非常に重要な岐路にいることを気づかされた。
映画「Autonomy」では、過去、現在、未来にわたって、自動車のテクノロジーがどのような歴史を歩んできたか、また自動車と人間がどのような関係を築いてきたかを、世界各国の様々な人たちの個人的な視点を通して描かれる。
自動運転技術に携わる自動車メーカーの最先端の技術者たちはもとより、Googleの自動運転車Weymoの常用者で「運転免許なんていらないわ」と語る米国アリゾナ州のティーンエイジャー、運転の仕事を愛し、自動運転車が自分のように運転できるはずがないと笑う長距離女性トラック運転手、ポルシェの改造で「神」とあがめられる東京郊外の秘密めいた工場のエンジニア、60年代、70年代に世界ではじめて「自動運転」の開発に携わったドイツや日本の研究者が登場し、「答えのない問い」を投げかけられる。
「自動運転技術は、いったい私たちの現代社会に何をもたらすのか」という問いだ。
グラッドウェルは、映画の要所で登場し、クリティカルな問いを我々に投げかける。