若いイギリス国民を投票所に向かわせるため、政府は何をすべきか――。選挙アドバイザーたちが議論を重ねる中で、浮かんだ妙案が配車アプリ「ウーバー」や出会い系アプリ「ティンダー(Tinder)」を通じた投票の呼びかけだった。
事前の世論調査の結果は、35歳以下のミレニアル世代の多くはEU残留を望んでいることを示していた。キャメロン首相が旗振り役を務める残留派にとっては、彼らをぜひ投票に行かせたい思惑があった。
このアイデアを練ったのは政府でキャメロン首相のアドバイザー役を務めるダニエル・コースキー(Daniel Korski)らのチーム。英フィナンシャル・タイムズの報道ではコースキーらは5月下旬、首相のオフィスに30社のテクノロジー企業を集め、若者を選挙に向かわせるためのアイデア出しを行った。その結果、浮上したのがウーバーとティンダーを通じた広告の配信だった。
ウーバーが表示したのはごくシンプルな広告で、ポップアップで「投票の登録は済ませましたか?」と呼びかけた。
一方、ティンダーは画面を左右にスワイプして回答するクイズを表示した。問題の内容は、イギリスがEUに対して支払っている金額や英国の政策に関する基本的知識だった。6月1日、ティンダーは公式ブログに「スワイプして投票を(Swipe the Vote)」という記事を掲載。英国の若い世代に向け、投票を呼びかかけるキャンペーンを始動したことを告知した。
「国民投票で重要な役割を果たすミレニアル世代が、事前に政策について学んでおくことは非常に重要です」とティンダーは述べていた。アプリ内にはオンラインで投票の事前登録ができるリンクも表示されていた。
政府に助言を行ったテック業界関係者らは、協力の見返りに政府が規制を緩め、ロンドンのスタートアップ企業をさらに活性化させる期待も抱いていた。2010年にキャメロン首相の発案で始まった「ロンドン・テックシティ」化案は、起業家ビザの導入や、起業家に有利な税制の導入を進め、国外からの起業家の流入を促進してきた。セント・ジェームズ宮殿を会場にした、政府主催のピッチイベントなども注目を集めていた。
EUからの離脱が決定した今、ロンドンのテック企業の未来にも懸念が高まっている。