Exclusive Interview

2018.1.9

水口哲也氏 ゲーム/メディアデザインの視点から都市設計・オフィス設計を考える
第1回 「ウォンツ」が循環するコミュニティづくり

Enhance CEO 慶應義塾大学大学院(Keio Media Design)特任教授
水口哲也(みずぐち てつや)氏
ビデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、共感覚的アプローチで創作活動を続けている。2016年にリリースしたVRゲーム「Rez Iinfinite」は米国The Game AwardでベストVR賞を受賞。

「Rez Infinite」「Child of Eden」など独創性の高いゲーム作品を生み出し、世界的な評価を得ている水口哲也氏。ゲーム/メディアデザイナーの視点から、10年先を見据えたオフィスの姿や街づくりのアプローチなどについて語っていただきました。


デザインにおける「ウォンツの因数分解」の重要性

僕はゲームやメディアデザインの仕事をしていますが、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科で教育や研究も行っています。ゲームデザインにもメディアデザインにも共通するのは、人間の体験をデザインする「エクスペリエンス・デザイン」です。それを面白い方向に持っていけばエンターテインメントになりますし、便利な方向に持っていけばモノづくりやサービスにもつながります。面白いとか、気持ちいいとか、楽しいとか、ワクワクすることには、必ず理由があります。その理由は、人々の持つ本能や欲求=ウォンツ(Wants)の中にあると考えています。僕の考えるデザインは、そうした人々の深層心理にあるウォンツを因数分解によって抽出して、それを基に、どのようにアーキテクトしていくか、ということです。その意味で、面白い、気持ちいい、楽しい、ワクワクするような作品をつくることと、そういうような場をつくることの間に境目はありません。どちらも、人間が中心であり、その人間が、その作品なり場なりをどう使いこなして、幸せになれるか、ということに違いはありませんから。

気持ちのよい場所には、気持ちのよい気のエネルギーが循環しているものです。エネルギーは循環することで、より大きなエネルギーになっていきます。ゲームの世界を例に挙げれば、以前は1人ないし数人で閉じた世界の中で遊ぶだけでした。それが、ソーシャルネットワークによって世界中とつながったことで、すごく上手な人のプレイを傍観したいという人が増えてきました。象徴的な出来事として、ゲームのプレイをライブ配信するトゥイッチ(Twitch)というプラットフォームを、2014年にアマゾンが約1000億円で買収したことが挙げられます。

このことは、ゲームを遊ぶというプレイヤーセントリックなものだけではなく、その周りにいる人たちを含めてエネルギーが循環し、ゲームの世界全体が盛り上がっていくという、いわば循環設計が始まったことを意味しており、そこには経済もくっついてきます。トゥイッチには、周りで見ている人たちもお金を落とすような仕組みもあり、加えてメディアとしての価値があることから、アマゾンも高額で買収したわけです。

このような循環設計が可能になったのは、メディアがソーシャル化を始めた頃からだと思います。合わせて、テクノロジーの進化も貢献しています。グーグルがユーチューブを買収した2006年頃は、まだ映像をリアルタイムで視聴するには、映像の解像度を低くしないと無理でしたが、今では高解像度の映像が一瞬で届くようになりました。これがあと2年もすれば、4Kが当たり前になり、その先には8Kも、3D映像も俊速で可能になるでしょう。テクノロジーは、今までは直線的に進化すると考えられてきましたが、それが指数関数的(エクスポネンシャル)な進化になり始めています。ですから、高速で通信できるデータ量が急速に増え、3年後くらいには、これまでのような「情報」ではなく、「体験」をリアルタイムに送受信できる時代が始まり、10年後には当たり前になっていると考えた方がよいでしょう。


スタートアップのためのエコシステム「エッジ・オブ」

循環設計の一例として、今、僕を含めた6人のファウンダーで進めている、エッジ・オブ(EDGEof)という起業家支援の拠点づくりが挙げられます。渋谷のタワーレコード隣の8階建てビルを改装し、2018年3月にオープンする予定です。エッジ・オブは、若いアイデアのある人たちや起業家をインキュベートするために、投資家、企業、そしてメディアを集めて化学反応を起こさせるためのエコシステムです。

日本でもこういう話はよくあると思いますが、日本国内で閉じているところがほとんどです。それに対して、僕らは世界とつながろうとしていて、シリコンバレーやフランスのスタシオン・エフ(StationF)、ベルリンのファクトリー(Factory)などとアライアンスを組み、国境を越えて人が交流できる仕組みを設計しようとしています。例えば、海外で資金調達をしたい日本の起業家や、投資先を探している海外の投資家が日本を訪れた時に、ここに立ち寄れば先鋭的な人々のコミュニティがあり、新たな挑戦の可能性に制約はほとんど無くなります。ここにはメディアセンターもつくる予定で、海外に向けて情報発信をすることも可能です。海外のジャーナリストも、渋谷に自由に出入りできるメディアセンターがあればアクセスしやすいでしょうし、率先して情報を流してくれると思います。

このエッジ・オブの思想は、国内外の起業家や投資家、企業、そしてメディアなどが、どうすれば循環して化学反応を起こせるか、ということを考えてファウンダー達が設計したものです。日本だけではなく、世界を見据えて頑張りたい起業家に対して、それをどうすれば実現できるかを考え、メンタリングからベンチャービルディングすることを特に重要視しています。「場所を提供するので勝手に使ってください」というものではありません。化学反応を起こすには、ファシリテートする人間や、コミュニティを運営し、意図を持って行動できる人間が必要です。エコシステムの鍵を握るのは常に「人」なのです。