入山章栄 × 中村洋基「新たな価値創造」に必要な
3つのキーワードとは

Santos Man Special Intaview #4

気鋭の経営学者、早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄と、クリエイティブラボ PARTYのファウンダー兼クリエイティブディレクターの中村洋基との対談。第1回では、人の心を掴む言葉とは何か、AIにビジョンは作れるのか、などのテーマで議論が展開した。対談第2回では、新たな価値を生み出すためには何が必要なのか、その方法を探る。

制限によって創造性は高まる

入山章栄(以下、入山)中村さんが、クリエイティビティの高い仕事を効率よく行うために、工夫されていることがあれば教えてください。

中村洋基(以下、中村)いま気になっているのは「広告クリエイティブはもっと科学できる」ということ。まず各プロジェクトにマーケティングチームを入れています。例えば、アプリのダウンロードを促す15秒のCMがありますが、沢山ダウンロードされるCMと、全くされないCMがあります。その原因を探っていくと、「アプリのアイコンをCMの画面に出すこと」や「“詳しくは◯◯を検索”と表示してクリックするモーションを入れる」など、必ず作用するポイントがあることがわかったんです。ならばそれをCMづくりのルールにすればいいと。

入山興味深いですね。でも、そういうルールを課してしまうと、逆にクリエイティビティの阻害につながらないのでしょうか。

中村私も最初はそう思ったんです。でも、そちらのほうが効率的にデザイン・コンテンツが良くなり、結果も上がることが多いです。つまり、最初に何も描かれていない白紙をクリエイターに渡すのではなく、「ここだけは守ってほしい。その代わり、あとは全部好きなようにやっていいよ」と制限したほうが、アイデアも考えやすかったり、制限されていない部分の発想が飛躍したりするんです。最近は社内でこう言っています。「リサーチは綿密に、でも仮説は大胆に」と。

入山面白いですねえ。実は、デザインの力は経営学では説明が難しいのです。特にサイエンス志向の強いアメリカを中心とした欧米の経営学がそうなんですが、対象物を細かな要素に還元し、相互のメカニズムを解き明かす「要素還元主義」が根本にあるからだと、私は理解しています。一方で、いくら細かく分解された「良いもの」を組み合わせても、それで全体が力を発揮できるとは限らない。重要なのは、その要素の組み合わせ方、すなわちデザインの力です。この力は還元主義のアプローチでは理論化が難しいので、考察対象にするのが極めて難しいんです。

中村ただ、16年も現場にいる私からすると、「クリエイティブとは何か」ということが日本では言語化、標準化されていなすぎるという逆の印象のほうが強いんですよ。アメリカのピクサーにそれが表れています。ピクサーの最高執行者、ジョン・ラセターは彼自身が有能な映画監督でもあるわけですが、作品の監督は別の若い才能たちにまかせ、最高のクリエイティビティをチームで生み出していく。外れがない作品を連発できる仕組みがうまく機能しているんです。つまり、個の才能によって作品のクオリティが大きく損なわれづらいメソッドをつくっているということです。極端に言うと、クリエイティブのいくつかの部分は標準化できると思っています。

知の探索の対象はスタートアップ

入山ということは、中村さんがしているようなクリエイティブディレクターの仕事も、標準化できるということですか。

中村クリエイティブディレクターの仕事のほとんどは「先読みして導くこと」と「決定すること」です。これらは、同じことを2~3回経験すれば「必ずこうしたほうがいい」と機械的に判断できますよね。「企画の方向性が定まったところで、最高と思われる人材でチームを構成する」とか「リファレンスをかならず参照する」など、今までやったことのないような内容の仕事であっても、過去の事例に近いものがなかったかを調べて知見を引き出す。こういった「仕事の作法」をマニュアル化していくわけです。

入山なるほど。特に最後の話は面白いですね。ゼロから一を生み出すのは非常に難しい。そこでゼロからではなく、既存の知と別の既存の知を組み合わせると、時に革新が起きる。それがイノベーションの源泉の一つであると、経営学では考えられています。そのためには、自分の認知の範囲から逸脱し、遠くの知見・視点を得る必要がある。これを経営学では、explorationといい、私は「知の探索」と呼んでいます。中村さんは、このようなことをされていますか?

中村以前は、世界の広告賞がリファレンスでしたが、最近はスタートアップのビジネスアイデアに注目しています。日本でも斬新な企業が続々と生まれています。例えば「CASH(キャッシュ)」というサービス。自分が売りたいものの写真を撮ってアップロードすると、買取価格の見積りが瞬時に送られてきて、「それで売りたい」と返事を送ると、品物自体は送っていないのに、代金をすぐに振り込んでくれるサービスを展開しています。これには度胆を抜かれました。

入山それはすごいですね。でも、写真を送った人が代金だけ受け取って品物は送らず、連絡が途絶えてしまう可能性はないのでしょうか。

中村ほぼないのだそうです。農家が畑の横でやっている無人野菜販売所と同じ理論で、意外にほとんどの人が品物を送るそうです。

入山面白い!究極の性善説でなりたっているわけですね。でも、人を騙す悪人が少ない日本だからこそ展開できるサービスかもしれません。中村さんは、そういった「面白い!」と思った情報をどう処理していますか。

抽象化とアナロジーの力を鍛える

中村メモアプリにひたすら書き込みます。ただ、単語だけ書いておくと、後でなぜメモまでしたのかを忘れてしまうので、多少自分の頭の中で「どこがよいと思ったのか」という構造を抽象化して、そのキーワードも一緒に書いておきます。メモを時々読み返し、そのキーワード、たとえばCASHの場合だったら、「無人野菜販売所」と「信頼」という発想を応用し、自分だったら何ができるだろうかとあれこれ想像します。

入山物事の本質を抽象化して理解し、同じキーワードが他に展開できないかと考える。まさにイノベーターの発想法ですね。それはアナロジー(比喩)の力といってもいい。アメリカ大統領の就任演説を分析すると、アナロジカルな言葉を使っている人ほど、大統領として高い評価を得ているという分析結果が得られたそうです。

 

自分の価値を分配して売るサービス

中村評価といえば、よくネットの世界は評価経済だと言われますよね。資本主義社会はお金が万能ですが、ネットではお金よりも、その人がどんな発言や行動をしているのか、それに対する賛同者がどのくらいいるのかといった、お金に換算できない評価のほうが重要視されています。それを利用して、昨年、その評価の裏返しである自分の価値をネット上で取引できる「VALU(バリュー)」というサービスを始めました。

わかりやすく言えば、自分の客観的な価値を分配して売れるというサービスです。トレーディングカードに近い。もし入山さんに10万円の価値があるとしたら、それを1000枚のトレーディングカードに分割し、一枚100円で売るようなイメージです。自分の価値が他人に買われたときの気持ちよさといったら、他に経験したことがないものですよ。

入山それこそ、PARTYのビジョンである「未来の体験を社会にインストールする」にふさわしいコンテンツですね。

Profile

入山章栄
早稲田大学ビジネススクール准教授。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。98年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーに就任。2013年から現職。
中村洋基
PARTY クリエイティブディレクター、電通デジタル顧問、VALU取締役。電通で多くのWebキャンペーンを手がけた後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。国内外250以上の広告賞の受賞歴がある。最近の代表作に、個人の価値を売買できるSNS「VALU」Eテレ「バビブベボディ」「マッハバイト」など。TOKYO FM「澤本・権八のすぐに終わりますから。」パーソナリティ。